2011年に未曾有の大震災「東日本大震災」を経験し、160年以上つづく南部鉄器のつくり手として、これからの100年のあり方を自問自答するようになったOIGEN。その出来事に前後するように出会ったのが、震災の被害が甚大な海岸沿いの地域に何度も何度も足を運び炊き出しをする料理人、伊藤勝康シェフでした。
鉄器を片手に(両手に!?)、岩手というローカルな地でつくる伊藤流フランス料理ができるまでのメーキングストーリーを[前編][後編]でお伝えしてきました。その[番外編]では、伊藤シェフが愛用してくれているOIGEN Palmaシリーズ フライパン(24㎝)のこと、プロならではの視点で教えてくれる鉄器の「ここがいい!」をお伝えします。
OIGENスタッフも思わずふむふむとメモを取ってしまった、プロのキッチンで活躍する理由などおもしろいこぼれ話です。
INDEX:「料理人に聞く」ロレオール田野畑 伊藤勝康シェフ
1.インタビュー前編「岩手のテロワールを一皿に込めて」
2.インタビュー後編「岩手のテロワールを一皿に込めて」
3.番外編 OIGENの南部鉄器は「俺の腕の延長だから」
|シェフの右腕:OIGEN:PALMAシリーズ フライパン(24㎝)|
「伊藤さんのためにデザインして欲しい。」その想いにイギリスの著名なプロダクト・デザイナーであるジャスパー・モリソン氏が応えて誕生したのがPalmaシリーズです。
Palmaシリーズのフライパン第一号を手にしたのは、もちろん「伊藤さん」=ロレオール田野畑・伊藤勝康シェフです。それ以来、シェフ曰く「俺の腕の延長」として、海外で腕を振るう時も、テレビの料理番組「アイアンシェフ(料理の鉄人の復活版)」に出演した時も、もちろんシェフの主戦場である自身のキッチンでも、毎日おいしい料理を作るのに欠かせない相棒に育ってくれているそうです。
「4枚までなら、俺片手で持って振り回せるもん。」そう自慢気に微笑む伊藤シェフ。重ねると、しっかりスタックできてカタカタしない。以前伊藤シェフの元で働いていた、細腕の女性コックでも3枚は軽々!?持てたのだとか!一分一秒を争う忙しいキッチンでは、こういった調理以外の作業性の良さも重要だと教えてくれました。
Palmaフライパンは底面に対して側面がシャープに立ち上がった設計になっています。底面が最大限広く使えると同時に、端にいくにつれてカーブがかからないので、底面の温度が一定になるのだそうです。火加減が命の料理人にとってはうれしいディテールです。側面からの熱も、「壁に立てかける」ことで効果的に使えるのも高評価のよう。
(写真2枚目)Palmaシリーズの「キャセロール」。キャセロールの蓋はフライパンと共有できます。(写真3枚目)Palmaシリーズの「グリル」
以前伊藤シェフに、なぜPalmaフライパンは軽いのかと質問されたことがあります。しかし、通常の24㎝フライパンと重さは変わらないのです。答えに窮しデザイナーになぜか尋ねても、微笑まれるだけ。デザイナーの力とそれをカタチにするモノづくりの力が相乗効果を起こしたとしか言いようがありません。
|「鉄器はサウンドだ!」熱の入り方が自然に分かる|
そもそも鉄器の何がいいのでしょう。「俺の手ですからね。無いと困りますよ。口では鉄器の良さは伝えにくいから、料理人が来た時に簡単だから見てみなって。魚の皮目だけパリッと焼いて、身が膨らみ方が違うからって見せるの。後は、肉を焼くときも余熱を使う。大事なのは音を聞くこと。だから、顔をフライパンの近くに持ってきてよく聞いてごらん。少し油飛ぶけど我慢しろって。」そうやさしく微笑む。
やはり伊藤シェフレベルになると、料理人でも一部敬遠されることがある鉄器も、最初からすんなり使えこなせたのだろうか…。
「最初は分からなかった。でも今は、チリチリ音がしていれば、素材にどのくらいまで火が入っているなとか音の変化で分かるようになる。音、艶、触ってね。サウンドもいろいろな音がある。ロマンチックな時も、ハードロックな時も、ジャズみたいな時も。観察するんだよね。変わっていく様を音とか香りとか見て楽しめれば、本当におもしろいよね。批判するつもりはないけどただジャーって言うだけのフライパンもあるからね。」
|きりっと香り立つできあがり|
「鉄器で焼くと、きりっとする。(一般的なフライパンで焼くと)水分の多いものを焼くとドリップが出てくることがほとんど。鉄器はそれがない。温度が下がらないというのが一番(の理由)。魚とか焼いている途中でドリップ出てくると、食いたくないって思っちゃう。そういう時には他のこと考えないといけない。例えば、魚をオイルでコーティングしたり前処理が必要。それが大変な段取りになるんだよね。
例えば他の店で料理をする機会があった時などに、スタッフが気を利かせてオーブンを温めてくれるけども、オーブンは要らないよ、厚めの肉でも、周りを焼いて置いておけば余熱で大丈夫って言います。」
ドリップが出にくく、食材の周辺のうまみと甘味が熱に反応して変化することで起こる香ばしさの深みが、鉄器は全然違うのだとか。なんでこんなに香ばしいの?どうしてこんなにふっくらしているの?とお客様に聞かれることも多いと教えてくれました。
|意外な鉄器の利点:メインテナンスがしやすく美しい|
ここで思い出したのが、伊藤シェフに4年前に商品開発のためにヒアリングをした際のメモのことでした。そこに書かれていたのは:
料理人の仕事はキッチンに着いたところからはじまる。どれだけ美しく使い続けられるか。銅鍋には専用の洗剤がある。洗剤がない場合は、卵白&レモンで磨き上げるメインテナンスの方法があり、手間がかかる。「次の日のキッチンにピカピカの銅鍋があればテンションがあがる。」その点、鉄器はメインテナンスがしやすく、常に磨き上げたキッチンのように美しく保てるところがよいそう。
|奥さん忙しいですか?じゃ、鉄器いいですよ。|
[番外編]いかがでしたか?最後にご家庭に向けてこんなお話が。
「忙しいのよって言う人には、なぜ鉄器使わないの?って聞きますよ。だって、トースト焼くの40秒だよ。歯磨きしている間に朝食準備できますよって。放っておいてもいい感じに火が入るからね。忙しい人ほど便利だから。
朝起きたら、まず火をつけて鉄器を温めて、顔洗っているうちに温まるから、お化粧しちゃうと熱くなりすぎるけど・・・。まずトースト焼いて、その後油たらして野菜焼くんです。その後は、火を消してたまご落として、それで蓋してできあがり。女性向けに販売しましょうか!?俺かなり売れると思うな。」と半分冗談、半分本気!?の伊藤シェフ。
“アイアンシェフ”伊藤勝康シェフと一緒につくるクッキング動画もお見逃しなく!Palmaフライパンも登場します。
文:薗部七緒(そのべななお)
2020年4月末日