OIGENと暮らす

第3話:忙しい毎日の中に見つけた穏やかな夫婦の時間

リトルハッピネス@台湾 第3話

OIGENが作っているのは、人と共にある鉄器。等身大の今を生きる人を、国や文化を超えて取材していきます。今回の国は台湾。
文:薗部七緒

INDEX:リトルハッピネス@台湾

第1話:好きなことの根っこ~ゲームと工芸と言語学
第2話:誰にでもある、こころの真ん中の一品
第3話:忙しい毎日の中に見つけた穏やかな夫婦の時間
第4話:30代男たちの居場所レノンさんと仲間たち

忙しい毎日の中に見つけた穏やかな夫婦の時間
大学教授・印先生・ケイ先生ご夫妻

印先生と言えば、「鉄瓶大好き!」な台湾師範大学の偉い教授。…なんて紹介も笑って受け入れてくれるだろう先生は、今年、大学の歴史の中で最も若い副学長に就任された本当に偉い方だ。

お茶が好きでおいしいお茶を淹れるための道具に目が無かった印先生が、台北のデパートで南部鉄瓶をはじめて手に取ったのは、今から10年以上前のこと。初めて会った時、「源泉から流れ出て、岩肌を通りながらろ過された軟水が、鉄瓶で沸かしたお湯で再現できるのです」と嬉しそうに話してくれた。

私たち伝統工芸の鉄器メーカーからしたら、まさに「違いが分かる」理想のつかい手である。10個ほど持っているという鉄瓶を、英語で「彼/He」「彼女/She」と呼び分けて、それぞれに合わせた木台を手作りしたというから驚いた。今回お宅を訪問して分かったのだが、先生の木工技術はカリフォルニアの大学でデザインを教えるご友人が認めるほど本格的なものだ。

印先生は自ら生活の質の向上を大切に考える「スローライフ」の実践者であると語っていた。便利、効率、早く、安く…に価値を見出した、20世紀後半から続いている大量生産型の社会へのアンチテーゼとして提唱されている生活スタイルである。

そもそも「スローライフ」とは、イタリアで生まれ世界中に広がった「スローフード」運動から派生した言葉でもある。ファーストフードに対して提唱された考え方であるスローフード。その土地の自然環境の中で丁寧に作られ、その土地ならではの風土に育まれた食文化を見直そうという呼びかけだ。目の前の食べ物の外側にある伝統、叡知、喜びを含めて、真のクオリティ「質」*注1と定義しているそう。

その意義には心の底から賛同するが、現実問題、生活の中で使う、食する物すべてを吟味して、その言葉の通り「ゆっくり暮らす」余裕が、経済的にも時間的にもないと感じててしまうのが、私を含む多くの人の本音ではないだろうか。印先生のような成功者だから、文化をたのしむ余裕があるのではないか。そんなことをぼんやりと考えつつも、その憧れの暮らしを覗いてみたい。そんな思いでインタビューを申し込むと、いつもの明るい調子で「いつでもウェルカムだよ」と返事が届いた。とは言うものの、多忙な印先生は、今はアメリカ、今はパキスタン、今は…と世界中を飛び回っているので、台湾で会えたのはラッキーだった。

 


 

木工と鉄瓶の共通点

新台北市にある印先生のご自宅にご招待いただいた。同じく大学教授の奥様ケイさんと一緒に作り上げたマンションの一室は、入った瞬間に「ホーム」を感じさせてくれる温かい場所だった。木工が趣味で、何でもDIYするという話は聞いていたが、壁の本棚から、ログハウス風の天井の飾り木、ダイニングテーブルセット、勉強机セット…ドアの飾り窓に至るまで手作りとは!

先生と木工との出会いは、遡ること13年前。新台北市の砂浜に落ちていた流木を拾って椅子を作ってみたいと思ったことがきっかけだった。話はOIGENの鉄瓶との出会った頃の話へ。

「OIGENに出会ったのは木工を始めたころと同じころでした。「ゆっくりと味わう」ということが、私が求めていたことでした。一つの作品を作るには膨大な時間が必要です。初めて拾ってきた杉の流木から、この椅子を作るのに6か月かかりました。彫刻刀を使って、一つの木を削っていきます。一刀一刀削っていくのです。

OIGENの鉄器でお湯を沸かし、お茶を淹れるときも同じような気持ちになります。「ゆっくりと味わう」感覚が私の中に広がっていきます。心地よく穏やかな気持ちになります。みなさんももっと日々をゆっくりと味わいたいと思っているはずです。」

持っている鉄瓶を指さしながら、「カラフルな色の鉄器もありますが、この自然の鉄らしい色が好きです」と印先生。「鉄分などのミネラルが豊富な山の土壌や岩肌を通りながら自然浄化され、湧き出てきた小川の柔らかい水がお茶には最も適しています。着飾っていないOIGENの鉄瓶でお湯を沸かす時、そんな自然の姿をイメージさせてくれるのです。」鉄瓶で水を沸かすと、水に含まれるミネラル(カルシウムやマグネシウム)が抜け軟水化するため、まろやかでやさしい口触りになる。鉄瓶で愉しむ白湯のすすめ

「プラスチック製品を買えば、同時にあなたはゴミを作っているに等しいと言えます。木も鉄も、私にとっては「地の塩」のような存在です。つまり、寛大で普遍的なものなのです。」

 


 

忙しさの中に見つけた特別な時間

そこでふと疑問が浮かんだ。13年前と言えば、今年18歳になる一番上の娘さんがまだ5歳のころ。下のお子さんたちは更に小さい。奥様のケイさん自身も大学で働き、共働きの忙しさは想像にたやすい。そんな時に流木を海岸に取りに行ったり、何時間も彫刻に夢中になる夫がいたら、「そんな暇があったら少しは家事や子育て手伝って!」と私なら小言の一つや二つ言ってしまいそうなもの。

印先生がお庭でBBQを準備してくれている間に、ケイさんにこっそり聞いてみた。すると意外な答えが返ってきた。

「そうね…。木工道具がそこら中に散らばっていて、勝手に片付けると文句を言われたこともありましたね。でも私自身は、何か月も床が片付かないこと自体に不満はありませんでした。なぜって?彼が木工に夢中になっている時が唯一話すことができた時間でした。夫婦の会話ができたのです。その点で、彼のそういう時間を受け入れるようになりました。授業の準備や論文執筆などの日々のプレッシャーから解放される時間が必要だって分かっていましたから。」



アメリカの大学で出会った二人。切磋琢磨しながら博士課程を修了。共に経済学を教える大学教授。

料理好きの夫が、友人や家族を招いたホームパーティーの為に手際よく料理をする土曜日の昼下がり、忙しい平日の夜の為に作り置きをコツコツと作っている日曜日の夕方。キッチンで横に並んで、野菜を切ったり、鍋番をしたり、洗い物をしたりしながら、普段後回しにして話すことが少なくなった自分のこと、親のこと、そして子供たちのこと、そして仕事の悩みをぽつぽつと話す。そんな時間が私たち夫婦にもあることを思い出させてくれた。

印先生と奥様が見せてくれたのは、「ゆっくり暮らす」ススメではなく、家族にとって大切な「スローな時間の作り方」だった。いつの日か手に入るかもしれない理想の暮らしではなく、今ここにあるかけがえのないパートナーとの、家族との時間という意味であれば、「スローライフ」は今からでも始められそうだ。

子供の頃は勉強嫌い。専門学校を卒業してから数年電気技師として働く。大学に行き直すことを決意し猛勉強。27歳で米国へ留学。異例の速さで博士号を取得し、教授としてのキャリアをスタートする。「先生を突き動かしてきたものは何ですか?」と質問すると、「私以上に楽天家で前向きな人は会ったことがありません。人はみな善良であり、可能性に満ちていると思っています。だから私にできることがあるならば、いつでも手を差し伸べたいと思うのです。」と印先生。

出会った時から、OIGENの私たちが恐縮してしまうほど、OIGENの製品は素晴らしいと言い続けてくれている。「私は本当にいいものだと信じているから、私の大切な生徒にもOIGENの話をします。彼らの生活を、人生を豊かにしてくれる良いものであると確信があるから、教えてあげたくなってしまうのです。はっきり言ってかなりの敏腕営業マンだと思いますよ(笑)時々情熱的過ぎると言われてしまうことがありますが…」と話しながら照れ笑い。国を超えてOIGENの可能性を信じてくれ、そっと後押しする言葉をくれる印先生に、この場を借りて感謝を伝えたい。印先生の「スローな時間」のパートナーとして、OIGENの鉄瓶が選ばれていることは誇りである。いつもありがとうございます。

*注1:Slow Food International(国際スローフード協会)「Our Philosophy」,
2019年3月12日

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