熱した無塗装のフライパンの表面で水がポコポコと蒸発する様子
無塗装の鍋の表面温度の高さが分かります。
南部鉄器の歴史は古く、平泉時代(日本史では平安時代)、広大で自然豊かな東北地方一帯を治めていた藤原清衡が近江の国から鋳物師(いもじ)を呼び、ここ水沢に鋳物産業を根付かせたことから始まると言われます。
及源鋳造は江戸時代末期に創業し、こつこつと庶民の生活道具である鍋釜を作り続けてきました。鉄はご存知のように、さびやすい金属です。この地方では昔から錆防止のために漆を焼き付けて商品としておりました。今でも伝統的な技法で作られる南部鉄瓶は漆を焼き付けております。
昭和に入り高度経済成長とともに産地では出荷も増え、漆を刷毛(はけ)で焼き付けする手塗りの方法では立ち行かなくなりました。そこで、岩手県の工業試験場において、漆とよく似た成分のカシューナッツの殻からとれる樹液を使用した塗料を作り、着色工程を請け負う工場に指導したのです。及源鋳造も、カシュー塗料の焼き付けによって商品を塗装しています。南部鉄器の中では、現在、企業によってフッ素樹脂塗料を塗装しているところもあり、それぞれの工場によって最終仕上げが異なります。
「上等焼」は現在、”生まれたままの「裸の仕上げ」”という意味の「Naked Finish(ネイキッドフィニッシュ)」から、「naked panシリーズ」として統一しています。(2024年時点)
2020年の新商品「マルット」「ソリット」も同様の技法を施したプレミアムな鉄フライパンです。
OIGENのプレミアム商品「上等鍋」の誕生
工場で上等フライパンを持つ及川秀春専務(2003年撮影)
そして、及川専務です。
彼は、工業高校を卒業後、機械加工の会社に入り加工技術を身に着けます。今はコンピュータ制御で加工を行うマシニングが当たり前ですが、彼は旋盤などを手で扱う最後の年代でもあり、手に油が染み込んだ仕事をしていました。そしてそれがとても好きで得意でした。その後ミシン製造会社に入り、東北では珍しい一級技能士の免許を持ちます。
つまり、ものづくりが大好きなエンジニアです。
OIGENの鉄器は、鋳肌が美しくクオリティも高い。でも、もっと良いものが作れるのではない?ものづくりを仕事とする技術屋は常に考えるものです。
営業チームからよく言われるのは、「お客様からのお問い合わせで一番多いのは、錆。使い方もあるんでしょうけれど…」
では、お料理の美味しさはそのままに錆びにくい鉄器は作れないのか。
鉄瓶を釜焼きする様子
ヒントは、南部鉄瓶に400年前から使われてきた「金気を止める釜焼き」。鉄瓶を高温で焼くことで酸化皮膜が形成され、錆に強い鉄に変わります。昔から「南部の鉄瓶は錆にくい」と言われてきた理由はこの「金気止め」にあるのです。まずはOIGENの鉄瓶の「金気を止める釜焼き」を高品質で、いつでもだれでもできるようにしたい。及川専務の粘りが始まりました。通常の仕事を終えて、夜。土日。ひたすら「釜焼き」の日々。
naked pan を「上等焼」している様子
そして、「釜焼き」した酸化皮膜は鉄鍋にも応用されていきます。
数年後の2003年、岩手県工業技術センターと釜石の分析センターにおいて「完璧な酸化皮膜です」と太鼓判を押される「OIGENの酸化皮膜」が出来上がったのです。
この「酸化皮膜」を施す工程を「上等焼」と呼び、出来た製品を「上等鍋」と名付けました。
盛岡での行政に向けての発表会で、
「900年の長い歴史を持つ南部鉄器が、まだ進化できるとは思っていなかった」
と言われたことが忘れられません。
料理人の方々の中でも愛用者が多いnaked フライパンプロ 27cm
塗装を施さない「上等鍋」はノンケミカルで、今までの南部鉄器以上に環境にやさしく体にやさしいものとなり、表面温度の高さや熱の豊かさで料理にとっても南部鉄器以上の評価をいただくこととなりました。
昔の技術を学ぶ素直な感性。それを高めていこうとする技術屋の粘り。こうして一生もののフライパンが生まれました。プレミアムな鉄フライパンです。
「経済産業省 ものづくり日本大賞 東北経済産業局長賞」の賞状
今はまだ、南部鉄器と言う大きなブランドが私たちを守ってくれておりますが、近い将来、それぞれの工場がそれぞれのブランドを持って、飛び立つ時が来ると思います。この技法と商品たちは、OIGENならではの「愉しむをたのしむ」と言うメッセージを世界に伝えていく、その大きな役割を果たすでしょう。
すべては及川専務の粘りから生まれてきました。
プレミアムな鉄鋳物フライパン
無塗装だけどサビに強いプレミアムな鉄鋳物フライパン「MALUTTO」「SOLITTO」。約170年近く、鉄の鋳物を作ってきた及源鋳造が、「つくる」ということの原点に立ち返って生まれた、2020年春発売の新商品です。