料理人に聞く

その土地のおふくろの味・郷土料理を伝える料理人


渡辺 貞子さんは、御年92歳の料理人。岩手県から「郷土料理等の優れた技術を有する技術伝統者」として「食の匠」に認定され、「食事処 おふくろ」を経営しながら市内各地で料理教室を開催するなど、奥州市で食に関わる活動を積極的に行っている方です。及源鋳造株式会社(以下、OIGEN)も実行委員となっているイベント「風土・food・風人」にもよく参加していただき、みんなから「貞子先生」と呼ばれ、とても慕われています。



この記事の中でも、貞子先生と呼ばせていただきながら、インタビューで伺った「食」への想いをお伝えします。貞子先生には、これまでの経験や現在行っている活動についてお聞きし、食べ物や料理について大切にしていることをお聞きしました。
渡辺 貞子(わたなべ ていこ)
・1982年 調理師免許取得
・1983年 旧胆沢町 食生活改善推進協議会長 就任
・1987年 会食型給食サービス「えびす会」設立
・1990年 食事処おふくろ 開業
・1997年 岩手県・食の匠 認定
・2005年 レシピ集「つたえたいおふくろの味」発刊

食の活動に至った原点

貞子先生は山形県大富村(現:東根市)出身。現在の住まいである岩手県奥州市胆沢若柳に引っ越したのは、昭和20年。貞子先生の両親は大富村で果樹園や桑園を営んでいたものの、第二次世界大戦中に農地が海軍飛行予科練習生の飛行場となったことを受けて、新たな農作地を探し、見つかったのが若柳村(現:奥州市胆沢若柳)でした。
以来、74年間若柳で生活を行う貞子先生は、夫の正吉さんとともに「有限会社 渡辺商店」を立ち上げ、建設業やガソリンスタンド経営などに従事。食に携わる活動を行うようになったのは、50歳になってからのこと。地元のクッキングスクールや東京都の調理専門学校「服部栄養専門学校」の講座に通い、昭和56年に教員資格を取得、さらに昭和57年に調理師免許を取得し、自宅で料理教室を開催するようになりました。
「料理教室に通うことは夢だったんですよ。当時は『いつか懐石料理をつくったり、お茶会を開けるようになりたい』と思っていたんです」

料理教室を開催し始めてからは、地域の方から「食」に関する相談を多く受けるようになった貞子先生。給食ボランティアとして、会食型給食サービス「えびす会」の立ち上げに携わり、自治体の「食生活改善推進員協議会」に参画するなど、「食のあり方」を考える活動に多く従事するようになりました。そうして地域の食に携わる活動を行いながら、郷土料理に興味を持ち始めると、地域の方から「飲食店を出店しないか」と声をかけられたと言います。
「建設されたばかりの町営球場の隣に飲食店を出店しないかという話がきて。この地域に訪れる方のためになれば、とオープンしたのが『食事処 おふくろ』です。『食を通じて地域のおふくろになりたい』との思いから店名を名付けました。お店では郷土料理の『すいとん』を看板メニューにしています」
おふくろは平成7年に現在お店のある国道397号線沿いの若柳愛宕に移転。あんこやごま、ずんだ、納豆、しょうが、汁物といった多種類のすいとんやうどんなどの定食メニューを提供し、地域の人が多く利用するまちの食堂的な存在を担っています。

これからの食のあり方、大切さ

「やっぱり食べ物についての考え方は、学生時代とか、小さい頃の体験があったからこそなんですよ。当時は第二次世界大戦中だったから十分に食べ物はない。支給されるのは雑炊1杯。おかゆよりちょっと硬いくらいの雑炊にたくわん二切れ。それも食券がなければ食べれない。そういう状態を1年半くらい過ごしていたんです」
食べ物に恵まれなかった戦時中の経験から、食の大切さを伝える活動にも取り組んでいる貞子先生。その想いは、現代の食生活への問題意識にも繋がっています。

「今はインスタント食品など、いつでも手軽に食べられる添加物や化学調味料の使われた料理をよく食べる文化になっています。そうした食生活の乱れは、きっと体にも悪いんじゃないかと思うんです。そのような食生活が当たり前になった今だからこそ、地域の食材を使った、体にいい郷土料理を伝えていきたいなと思うんです」

貞子先生は、食事処 おふくろのホームページや著書「つたえたいおふくろの味ーわが家の行事食と家庭料理」の中でも現代の食生活への疑問や不安を語っています。
終戦後60年。めまぐるしく時代は変わり、その中でも食文化を考えた時、本当にこれでいいのだろうかという思いを常に感じています。
「飽食の時代」などともてはやされ、24時間営業のコンビニやレストランに行けば、何でも手に入り食する事ができる時代となりました。子供達の食生活の乱れは、将来大人になった際の自分の体に病が早く訪れると危惧されている面もあります。また料理が苦手だからと外食やインスタント食品を多く与えている親がいらっしゃる事も心配しています。

私は「おふくろの味」が「お」のとれた「袋の味」になってしまう事を恐れています。このままでは、親の与える「袋の味」に慣れ、添加物や化学調味料の味がおいしいと感じてしまう事が当たり前の味覚になってしまうのではと不安でなりません。
地元で取れた食材を使い愛情という調味料で味付けした家庭の味、年中行事で作られていた郷土の味を忘れないでください。おふくろの味を子や孫まで伝えていきたい。それが私の最後の仕事だと思っています。

(つたえたいおふくろの味より)

おいしくて体にいい食べ物を「おふくろの味」、「家庭の味」、「郷土の味」として伝えていく。貞子先生はインタビューの中で「『体にいい食べ物』っていうのは高価なものではなく、きれいな土壌で育った、その時期に採れる旬の食べ物のことだと思っています」とも繰り返しお話をしてくれました。
そうした貞子先生の一つひとつの言葉から、食についての強い想いとそれに裏づいた経験、食への姿勢が感じられます。
「自分でもまさか92歳まで長生きするとは思わなかった。今も本当においしく、よく食べるんですよ。いろんなものを、好き嫌いなくね。やっぱり元気に過ごすには、『生き様』、『生き方』もそうだし、同じくらい食べ物も大切だと思います」

貞子先生に寄せて…

<「Food・風人イベント」に参加している東京在住のマーケッター 中村宏さんより>

OYKOT(オイコット)は、TOKYOを逆さまに書いて非東京の魅力を表現した言葉です。
早い話しが貞子先生はOYKOTの巨人だと言えば、貞子先生の事もOYKOTの意味も御理解頂けるのではないでしょうか。
で、3・11の被災、風評被害。この風評被害の克服をなんとかすべく企画されたのが「風土・Food・風人」の集まり。そして余所者として参加した私は、この地に育まれた人達が「風土の魅力を自覚してない」という事を指摘。で、それに気付いて動いた何回目かの集まりの際に、ゲストスピーカー(語り部)として御参加頂いた貞子先生にお会いし、知識や論理ではない知恵と経験に培われた巨人との縁が生まれました。
お互いに、後進には、どれだけ引き継いで、どれだけ伝えられるのか、心許無いばかり……。

<岩手食の匠の後輩にあたる 若生和江さんより>

貞子先生のことを知ったのは、地元の新聞で取り上げられている記事を読んだことがきっかけです。初めてお会いしたのは平成15年から16年のあたり。食の匠に認定されている料理人の方を講師に、郷土料理を学ぶ「アテルイの里伝統食リーダー」という2年間の研修制度に参加して、貞子先生から料理を教わりました。
「風土・food・風人」に貞子先生をお誘いしたのは、貞子先生から料理を教わりながら、料理の楽しさを改めて実感して、もっとたくさんの人にもこの体験をしていただきたいなと思ったからです。やっぱり貞子先生とその場で一緒に料理を作ることで、心に響くことがいっぱいある。風土・food・風人は料理人の方と参加者が一緒になって、その日の食事をつくるので、昔地域で当たり前に行われていた、地域の集まりの度に料理上手なお母さんたちから若いお母さんたちへ料理が伝わっていく時と同じように料理を教わることができる。そうした時間を繋げたかったという想いがあります。貞子先生はその季節に採れる食材を使った、食べることで健やかに過ごすことのできる料理を普段から作っている方なので、そうした方から教わるということが今は本当に大切なことだと思っています。
食べることや料理を作ることに対しての想いを大切にしながら、料理教室を開いて、たくさんの人達にその想いを伝え続けてきた貞子先生。想いと姿勢が繋がっていることが本当にすごいことだと思うので、まだ足元にも及ばないけど、見習いながら「いつかこんな料理をつくれるようになりたいもんだな」って感じられる、私にとってお師匠さんのような方です。

文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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