料理人に聞く

上等焼(nakedfinish)の鉄板でつくる料理人 -鉄板焼き処 來-

岩手県は、本州の中で一番広い県。北と南では食文化も気候も違います。鉄板焼き処來の志賀シェフが住む二戸市は岩手県のいちばん北、青森県との県境にあります。最近注目度の高い短角牛や佐助豚、菜彩鶏、あべどりの生産地であり、お酒は南部美人、お菓子は南部せんべい、果物はさくらんぼと多岐にわたる食材の宝庫。瀬戸内寂聴さんが長らく住職をおつとめされた天台寺、国産漆の大生産地浄法寺・浄法寺塗りがあるのも二戸市。北東北は縄文の遺跡が残るロマンの土地。そんな二戸で「OIGENで作ったオリジナル〝鉄板″」で勝負をしている料理人がいます。

鉄板焼き処 來の料理人志賀且資シェフは、岩手県産の短角牛のステーキや岩手県野田村産・荒海ホタテの鉄板焼など、地産地消にこだわり、すべて鉄板で調理したメニューを提供しています。
志賀シェフが料理を始めたのは、両親が食堂を経営していたことがきっかけ。35年営業し、地域の人が集まるまちの食堂的存在であった「しがちゃん食堂」を幼い頃から手伝っていたことで、自然と料理の道を志すようになったといいます。
「高校を卒業してから、調理専門学校に進学をして、その後19歳から上京し、様々なお店で13年修行をしていました。両親の料理をする姿やお客さんとの接し方を見て、『いいなぁ』と思っていたので何も違和感なく、料理の仕事に就きましたね」
和食や焼きそば専門店、鉄板料理屋など幅広い分野の飲食店に勤め、料理の腕を磨いていた志賀さん。2007年にUターンし、來をオープンしました。
「両親がお店を経営するのが体力的に厳しくなった時に、跡を継ぐ形で二戸に戻ってきました。せっかく自分でお店をするのであれば、食堂スタイルを続けるだけでなく『新しいことに挑戦したい』という気持ちがあった。そこでお店の形態をそのまま引き継ぐのではなく、修行時代に学んだ技術を生かして、鉄板焼き屋をやることにしました」
修行時代に魅力を感じて、挑戦した鉄板焼き。その魅力を地元から発信していこうと日々鉄板焼に向き合う志賀さん。 家業が飲食店だからと言って、子供が後を継ぐとは限らない時代に、ご両親の背中を見て育ち、それを天職と思った志賀さん。その無理のない自然体の姿が地域の皆さんにも伝わっているのではないでしょうか?今年で開業から13年目、しがちゃん食堂と同じく地域内外の人から愛されるお店になっています。

OIGEN×鉄板焼き

同じ岩手県内とはいえ、二戸市とOIGENのある奥州市の距離は約150km。お店から遠く離れたOIGENを訪ねて、志賀さんはなぜ南部鉄器を扱おうと考えたのでしょうか?
「鉄板を使うのであれば、地元のものを使いたいという気持ちがあったんです。お店を始めるのに、まずは道具からという気持ちがあったので、自分で調べてOIGENさんを知りました。」

志賀さんは、2006年にOIGENをご両親と訪問しています。その時対応をしたのは社長と専務。
「〝鉄板″を南部鉄器で作りたい。オリジナルで!」
これから進むであろう彼の料理人人生を賭けている。そんな熱心な気持ちがうかがわれました。鉄板焼きのお店は普通、鉄鋳物は使いません。鉄の板かステンレスの板をカットしたものを使います。しかし志賀さんは、「岩手の鉄鋳物で」と鋳造の板をリクエストしたのです。当時OIGENには、新技術が生まれていました。「上等焼」です。(現在ではnakedfinishと名を変えています)社長と専務は、【無塗装でサビにくい特許技術】この新技術を取り入れた〝鉄板″を彼に提案するべきだ。と思いました。

この技法は鉄鋳物の蓄熱性と表面温度の安定性を兼ね備えた【焼きにこだわる料理】にぴったりのものなので、そして、油のなじみ方が、一般の鉄器とに比べて格段にいいのです。
詳しくはこちら
当時、OIGENから南に20分ほどのところに、伊藤勝康シェフのレストランがありました。伊藤シェフはすでに上等焼(naked finish)のフライパンをお使いだとお話ししましたところ、志賀さんは伊藤シェフを実際に訪ねて、上等焼で作る!と決心なさったのです。

「OIGENさんに早速訪問をしたら、すごくよく話を聞いてくれて、自分の要望を快く引き受けてくれた。自分の思い描いていたものが作れそうだということで、何度かアプローチをして、お願いすることにしたんです」
それまで働いた経験のある鉄板料理屋に相談をして、鉄板の厚さや大きさなどをリサーチした志賀さん。それらを参考に独自の規格を作成し、OIGENに「上等焼き」の鉄板を依頼しました。

鋳造という製造方法は、大きい面積を平らに作ることが実は苦手です。鉄が固まる速度が場所によって違うために、変形が起こるのです。そしてそれをクリアできたとして、【上等焼技法】は出来上がった鉄の板を900℃に焼き上げなければならないのです。当然そこでもねじれが発生し、平な表面をつくることは至難の業。。。詳細は割愛しますが、、、OIGENのものづくりチームは、美しい〝鋳物の鉄板″を作り上げました。〝鉄板″焼に使う平らな鉄鋳物の〝鉄板″。
志賀さんの火元は全てこのOIGENの〝鉄板″に合わせたオリジナル設計の熱源。本当にこだわりぬいたものでした″
2007年、完成した上等焼(naked finish)の〝鉄板″は、二戸の鉄板焼き処「來」に設置されたのです。


※設置から13年が経過していますが、より一層の輝きを放ちシェフの片腕となっています。

「何よりも鉄器じゃないといけないですね。自分はもうこれにすっかり慣れてしまいました。揚げ物に近いものも〝鉄板″の上で蓋を使って蒸し焼きのようにして作ったり、ラーメンもこの〝鉄板″を使って麺をカリッと焼いて作る。なんでもこれを使って料理をするのがコンセプトです。これを使いたくてしょうがないんですよ」
どんな料理もこの〝鉄板″でつくる。そのこだわりは一つひとつのメニューの味にもよい影響が出ているといいます。

「南部鉄器の特徴は、栄養が逃げないこと。野菜は特にそうですね。ブロッコリーやアスパラガスは茹でるよりも、蓋を使って蒸し焼きをしたほうがおいしい。また、熱の通りが一定なので、焦げることがない。おいしさを引き出す火の通りが〝鉄板″ならではだなと感じます」

地域のいいものを

また、志賀シェフは調理器具の他に食材も地産のものを使うように心がけています。
「やっぱり地元に住んでいたら、いい食材が手に入りやすい。すでに身の回りにいいものがあるので、それらを活かした料理が提供できればと考えています。身近にいいものをちゃんと使えないともったいないですよね」

鉄板焼きへの想いや調理器具、食材について話すシェフはとても愉しそうな様子。今後は自分が得た経験を次の世代へ継承していきたいと意気込みます。
「鉄板焼きはシンプルな道具だからこそ、調理方法には工夫が必要。知識や経験がとても重要なので、これからは自分が身につけた技術を伝える機会をつくれるといいなと思っています」
自分の生まれ育った地元にお店を構えているからこそ、地域のものを扱って料理することを大切にしている志賀シェフ。お店に訪れた際はぜひカウンターに座って、シェフとの会話と〝鉄板″とヘラが奏でる軽快な音も愉しみながら料理を味わってみてください。

文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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