料理人に聞く

[前編]Sola Factory co.吉武広樹さん:レストランを飛び出し、届ける食体験 サステナビリティ×クリエイティビティ

TV番組「料理の鉄人」を見て、料理人に憧れたと話してくれるY世代(1980年頃~1995年頃生まれ、幼少期から青年期にデジタル時代を迎えた)のシェフは多い。1993年から6年間に渡り放送され、料理人という職業の知名度と人気を一気に押し上げた伝説の番組。ちなみに、放送当時、小学生がなりたい職業のトップ3に「料理人」がランクインしたとか。

1980年佐賀県生まれの吉武広樹シェフも、まさしくそんな少年の一人だったようです。約20年後パリに渡り「Restaurant Sola Paris」をオープン。たったの1年3ヵ月でミシュラン1つ星を獲得。そこに至るまでと、そしてそこから続く輝かしい実績は実にまぶしい。
sola 吉武シェフ

吉武広樹シェフ / Yoshitake Hiroki

1980年8月佐賀県伊万里市生まれ

幼いころにテレビで目にした「料理の鉄人」で晴れやかに活躍する坂井宏行シェフに魅了され料理の世界を志す。福岡市の中村調理製菓専門学校を卒業後、坂井宏行シェフの「La Rochelle」(東京・渋谷)で3年間、「Le Pirate」で3年間フランス料理の基礎を学ぶ。

2007年フランス料理に留まらず、さらに広い視野で見聞を広げるため調理器具を背負い、アジア、中東、アフリカ、アメリカ等、現地で料理を作りながら世界を周る。

【経歴】

2008年 渡仏
2009年 シンガポールにHiroki88@Infusionをオープン
2010年 パリに共同経営でSolaをオープン
2018年 Sola Factory co.を福岡県に開業

【受賞歴】

2012年 ミシュラン1つ星を獲得
2008年 「RED U-35」第2回グランプリ受賞
※その他、「情熱大陸」等多数のメディア取材も受ける。

筆者がはじめて吉武シェフを“見た”のは、2016年にパリで開催されたシェフ向けのあるイベント会場でのことでした。2010年代頃から、フランスのガストロノミー界における日本人料理人の活躍は広く知られています。その中でも先陣を切った開拓者というイメージが強い。会場にふらっと現れた吉武シェフが放つ、現在進行形の探求心と自信を身にまとったオーラを“見た”瞬間、緊張したのを今でも覚えています。

あれから4年が過ぎ、2020年夏に40歳の誕生日を迎えた吉武シェフ。2018年福岡に拠点を移し、新たな挑戦をはじめています。この特別インタビューでは、そんな吉武シェフの「今」について伺いました。

[前編]は、思いもよらず飛び出した「サステナビリティ」というキーワードにまつわるお話です。
sola 吉武シェフ
―まず、「Sola Factory Co.」というお名前について。ファクトリーと名付けたのはなぜですか?

【吉武シェフ】
“いろんなもの”を創りたいという想いで付けました。テラスを含めて120坪。客席は半分以下。つまり半分以上がキッチンです。「ラボ兼ファクトリーに食べに来てもらう」というイメージで店づくりをしました。僕を含めて、料理人は8人。半分はパリから一緒に帰国しました。
sola 吉武シェフ
僕みたいにフランスにいて、日本へ拠点を移すシェフは沢山いる。でも、だいたいは東京に出店する。ザ・高級フレンチをやる人がほとんどかな。ただ、僕は高級フレンチのお店をやることだけが自分たちの可能性ではないと思いました。

レストランに来られる人は限られています。通常のメニューでは、料理だけで一人1万円。でも、5000円でも作れますし、もちろん1000円でも作れる。より多くの人においしいものを届けたいというのがやりたかったこと。

―“いろんなもの”とは?

【吉武シェフ】
イベントやケータリング、テイクアウトなど、レストラン運営にとらわれず、“いろんなもの”を並行してやりたかった。

食べ物だけでなく、レストランにまつわるもの、箸、フォーク…でもなんでも、自分たちの経験が活かせるものを作っていきたいと思っていますし、すでにはじめています。
sola 吉武シェフ

“ファクトリー”で製造したものを遠くの人へも届けたい。だから、福岡市内から少し外れた活気のある港を選びました。魚の市場があって、宅配便業者の事務所もあるような、流通拠点になっている場所です。ここからいろんなところへ届けられるようにと考えました。
sola 吉武シェフ

―店舗の半分以上を占める広いキッチンは、まさにクリエーターが創造活動をするラボでもあり、生産するファクトリーでもあるということですね。その目玉に、直火の「薪台」を導入したのはなぜですか?

【吉武シェフ】
スペインのバスクにあるアサドール・エチェバリをはじめ、世界的に薪というプリミティブな熱源が注目を集めていて惹かれていました。時代の流れがそうだったというのもありますが、日本だけでなくいろんな国で間伐材を使うことは、森を守ることにもつながると知ったことも大きな理由です。

調理全てに直火を使っているわけではありませんし、ガスも電気(IH)も使っています。ただ、熱源の選択肢に直火を持っていることが、よりサステナブルなのではと思いました。

自分たちの「飲食」という分野の中で、(サステナビリティに対して)何ができるのかなと考える中で、着目したのが間伐材でした。幅広く(取り組むの)ではなく、自分たちができることから。そうすると、食べているお客様にも伝わるかなと思っています。

sola 吉武シェフ

間伐材の薪はホントウにサステナブル?

木を燃やせば、当然温室効果ガスの一つであるCO2(二酸化炭素)は排出されます。では、間伐材を調理の熱源として使ったり、もっと大きな規模で、再生可能エネルギーに認定されている「木質バイオマス」と呼ばれる燃料にして使うのは、ホントウにサステナブルなのでしょうか。

答えはYES。理由は「カーボンニュートラル」という考え方に基づきます。大気中にあったCO2を吸収した木を燃やすことで、今度は大気中にCO2を放出しますが、大気中にあるCO2の量は±0で変化はないというロジックです。

ちなみに、CO2を含む温暖化効果ガスの人為的原因として、国際的に議論され問題視されているのは、人類の歴史よりも遥か昔から長い年月をかけて作られた石油や石炭などです。

話を戻します。木は成長に必要な養分を作るために光合成を行います。光合成とは大気中のCO2を吸収し、O(酸素)を放出すると学校で習いました。実は、仮に燃やさなくても、長い年月の自然の営みの中で枯れ、朽ちて腐敗すると、吸収したCO2は放出されます。そして放出されたCO2は、次の世代の木が光合成に使います。

つまり、適切に間伐を行い、次の世代をはぐくむ健全な森を育てる取組みの中で、CO2は「循環」しているのです。だから、間伐材を使った薪台はエコロジカル、そしてサステナブルな素材だと考えられています。

―Sola Factory co.ですすんで使っているという規格外の食材や、廃材を使ったインテリアにも、「サステナビリティ」というキーワードが思い浮かびます。サステナビリティを意識するようになったきっかけがあったのでしょうか?

【吉武シェフ】
フランス(に暮らしていたこと)の影響は大きいと思います。フランスをはじめ、ヨーロッパが(環境政策において)先進地域。何をやるにも念頭にある。

飲食業だけでなく、すべての産業、そして身の回り(の暮らし)において、必要不可欠(な考え方)。プラスチック袋の提供が禁止されたのは2016年。日本はようやく今年に入って有料化ですよね。飲食業で使うテイクアウトの容器も土にかえるものでないとだめ。製造、流通、使用が禁止されている。

強制的に国が実行する側面がある。みんなの意見を取り入れてちょっとずつではなく、ある日突然一気に変わる(という印象)。

例えば、今年のはじめにパリに行ったんですが、自分たちが住んでいた時(2018年まで)よりも、確実に市内を走る車が少なくなっている。4から2、3から2と車線を減らしている。車線が自転車やキックボード専用に変わっているところも。

実はパリは市内を走る車から出る排気ガスが、北京と同等と言われ長年問題になっていた。基準値を超えるとメトロやバスが無料(になり、公共交通機関の利用を促す)。マイカー規制もあって、ナンバープレートの番号で市内に入れる車が決められている。渋滞だらけで、もちろん今までよりも不便で困るが、(環境のためと理解し)市民が受入れて工夫するしかないという感覚。

―レストランにとってのサステナビリティというと、日本では「地産地消」への取組みが第一に挙げられる印象があります。

【吉武シェフ】
「地産地消」は僕らの世代ではあたりまえ。意識して実践するというよりも、絶対必須で、素材を選ぶにあたってすでに前提条件だと言ってもいいのではないかな。環境に対して何ができるのか、それ以上のことを考えていかなくては。

「サステナビリティ×ローカルビジネス」をテーマに活動をしている筆者にとって、シェフへのインタビューの冒頭から「サステナビリティ」の言葉が出てきたのには、正直驚きました。

世界を股にかけて活躍し、フランスで認められたトップシェフの一人であれば、「あたりまえ」の姿勢なのだと、すぐさま考えを改めました。

「クリエーターが集まれば、いろんなことができる。ただおいしいものを食べてもらうだけじゃなくて、サステナブルなものとか環境にやさしいものも含めて、いろんなことに取り組むことができる。あくまで、ここに関わるみんなが、(この場所を)利用して、向き合っていけるようになったらいいなと。」と話す吉武シェフ。

「食」こそサステナビリティを考える時のど真ん中です。農業のあり方、そして食する者の選び方、扱い方、食べ方が、気候危機を含む地球環境や、その変化に対して弱い立場にいるコミュニティに暮らす人々の、生活基盤を脅かしもし、また解決策にもなる。「サステナビリティ」の対話が、国際的に活躍する吉武シェフの中で、そして周りで軽やかにはじまっていることにわくわくしました。

[後半]は、パリから福岡に凱旋しオープンしたSola Factory co.の“噂の”薪台について伺います。
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