料理人に聞く

鉄器の上で食材を喜ばせる料理人:ときよじせつONODERA小野寺伸也シェフ

小野寺シェフ

岩手県北上市にお店を構える「ときよじせつONODERA」。店名になっている「ときよじせつ(時世時節)」は、その時その時の移り変わり、巡り合わせという意味があります。
「季節を大切にし、出会いを楽しむ」。店名に込めた想いを大切に、小野寺 伸也シェフはOIGENの鉄器を使った料理を提供しています。

目次

1 シェフになるまで
2 シェフ修行
3 タヴェルナからアリーブヘ
4 アリーブで提供していた料理
5 ときよじせつONODERAオープン
6 OIGEN鉄器について
7 小野寺シェフが独自に考えた鉄器
8 まとめ

小野寺さんがシェフになるまで

小野寺シェフはOIGENのある岩手県奥州市水沢が出身。料理人を目指し始めたのは、高校卒業後に就職したホテルでのある出来事がきっかけでした。

若かりし頃の写真(依頼中)
「当時私はホテルのサービスマンとして働いていたんですが、上司に『スタッフ用のまかないを作れ』と言われたことがあって。その頃はほとんど料理をしたことがなかったのですが、不安ながら作ったご飯をその上司が手をつけずに捨てたんですよね。『こんなものは食べれない」って。それがすごい悔しくて。それから料理ができるようになろうと考えて、飲食の仕事に就くことを決意しました」

自分の作った料理を食べずに捨てられた悔しさや自分の将来のビジョンを見据えながら、勤めていたホテルを1年で退職し、料理の道へ進むことを志した小野寺シェフ。「当時は洋食が流行していた時代。料理人、シェフといえばフレンチのイメージを持っていた」ものの、フレンチレストランに入るには、調理専門学校を卒業している必要があることなどから、就職を断念。考え方を大きく変えて、盛岡市のパン屋に勤め始めます。

「いずれフレンチを作るなら、パンが作れないとダメだろうと考えたんです。本当に若いって不思議で、自分でもなぜその時にその考えに至ったのかはわかりません(笑)」

パン屋では6年働き、チーフを担当。その頃、盛岡でイタリアンレストランが増え始めたことから、イタリアンにも興味を持ち始めたといいます。

「知り合いのシェフに紹介してもらって、近所のレストランを見学したり、専門書を読んだりしていました。また、お金を貯めて1ヶ月イタリアへホームステイにも行きましたね。当時は有名なレストランを知らず、ひたすら地元の料理や家庭料理を食べていました。今振り返ってもとてもいい経験だったなと思います」
イタリア時代の写真(依頼中)

イタリアから帰国した後は、料理の仕事に就くため、知人から紹介してもらったイタリアンダイニング「ラ・タヴェルナ」に就職。それから小野寺シェフの料理人としてのキャリアがスタートします。

シェフ修行

「ラ・タヴェルナで料理を始めたばかりの頃は、それまでイタリアンについての知識をたくさん蓄えていたことから頭でっかちになってしまっていたんです。その知識がイタリアンの現場に入って一気に覆されました」

ラ・タヴェルナでは現在、花巻市にあるイタリアンレストラン「Legame dall’orto(レガーメ・ダ・オルト)」の店主を務める太田 史弥シェフから料理を教わっていました。

「料理に使う道具は大切にすること、大人数の調理をするときも一皿一皿の味を追求すること、しっかり気持ちを込めること。料理というより、料理をするための心構えを太田シェフから教わりました」

太田シェフと共に働きながら、料理の本質・根本に触れ始めたものの、そこで感じたのは達成感よりも挫折感。ラ・タヴェルナで働き始めてから1年が経つ頃には、「自分には料理を突き詰めることは難しい」とシェフの道を志すことを断念しようとしたといいます。

しかし、その意向を当時の上司に伝えると「太田シェフに料理を教わって、このまま辞めてしまうのはもったいない」と北上市にある「ビアレストラン ARIV 北上(以下、アリーブ)」に入ることを勧められ、気持ちを新たにアリーブでの料理に取り組み始めます。

タヴェルナからアリーブヘ

小野寺シェフ
「アリーブに入ってから一番に意識したことは、お客さんに楽しんでもらうこと。そこで、カウンター席に座るお客さんが『こういうものが食べたい』と言ったものはメニューにないものでもなるべく作るようにしていたんです。そうすると本当にいろんな料理を勉強する必要が出てくる。それを繰り返していくうちにできることが増えていきました。アリーブに来ていたお客さんが自分のことを育ててくれましたね」

ラ・タヴェルナでは料理をするための心構えや意識について学んでいたことから、「実質料理の下積みがないままの状態だった」小野寺シェフ。しかし、アリーブでシェフを務めながら、お店を運営していくことで料理の腕を磨いていきました。

アリーブで提供していた料理

「アリーブで提供する料理の特徴のひとつには、生産者さんから直接仕入れた野菜を扱うことがあります。始まりはラ・タヴェルナに来ていた常連客の方から紹介されたアスパラガス。通常メニューとは別にその日仕入れたアスパラガスを使って特別メニューを提供し始めたことがきっかけです。それから声をかけてくれる農家さんが増えて、生産者さんとのつながりが増え、旬なものを旬な時に料理する愉しさを実感することができるようになりました」
小野寺シェフ
お店の常連客やつながりのできた農家、料理人から紹介を受け、地元の食材やその生産者を知ると、それまで市場で購入していた野菜を直接生産者から買い取るように。その野菜で作る料理の評判から、徐々に客足が増え始め、次第にアリーブは「忙しいお店」になったといいます。

「お店にきてくださる客層も時間帯や日によってまったく違っていて、本当にたくさんの方がいらしてくれるお店になってきていました。常に意識していた『お客さんが楽しいお店』も実現できていたと思いますね」

店が賑わい、お店・会社としていい状況が生まれている一方で「料理の仕方がわからないまま、お客さんがたくさん来てくれる状況がなんで生まれているのか、疑問に感じながら自分の今後について考えるようになった」と小野寺シェフ。そこで、「ときよじせつONODERA」をオープンする発想が生まれました。
小野寺シェフ
「自分の今後について改めて考え始めたら、イタリアに行ったときのことを思い出したんです。イタリアで食べた家庭料理は旬なものを旬なうちに食べる、とてもシンプルな味付けのメニューばかりでした。また、地方のレストランに行くとちゃんと地元の料理が出てくる。パスタやピザなど特定の料理のことではなく、そうした考え方としてのイタリアンをやりたいという考えに行き着いて、自分のお店を持つことを決めました」

ときよじせつONODERAオープン

小野寺シェフ
アリーブの運営会社である「株式会社アリーブ」に所属したまま、その系列店として2017年7月にときよじせつONODERAをオープン。旬の食材を扱いながら、店主とお客さんが会話を愉しむカウンター席のみの店とし、自身が抱くイタリアンの考えがスタイルとして表現されています。
小野寺シェフ
「大切にしているのは、食材を伝えること。旬のものをシンプルな味付けで調理するイタリアンの考えに加えて、このお店で食べた野菜を家でも食べたいと思ってもらえたらいいなと思って、料理しています」

OIGEN鉄器について

小野寺シェフ
小野寺シェフがOIGENの南部鉄器を使い始めたのは、アリーブに入社してからのこと。ときよじせつONODERAをオープンしてからは、より鉄器を意識するようになり、OIGENとの関わりが強くなったといいます。

「ときよじせつONODERAを開業する時に、自分の出身地である奥州市水沢のことも意識できるといいなと考えて、南部鉄器を使った料理を提供することを決めました。それから自分が思っていた以上に、南部鉄器にハマっていきましたね」
小野寺シェフ

小野寺シェフの鉄器の使い方はとても独自性が高く、バリエーションが豊富。ときよじせつONODERAでコースの最後に出すご飯もののメニューの中で1番人気の「卵かけご飯」もOIGENのご飯釜を使用して作っています。その使い方も小野寺シェフが編み出した独特の方法です。
小野寺シェフ
「お米の炊き方を試行錯誤していくうちに、お米はあまり研がなくてもおいしいことがわかった。また、ふたを開けたまま沸騰させた後、ふたをし弱火で15分程火にかけるだけで、蒸らしの時間が無くても十分においしくできる。ひとりでコース料理を提供するお店を営業する中で見つけた方法なので、料理人からするとダメなやり方なのかもしれないですけどね(笑)」

料理人としてのキャリアだけでなく、ホテルのサービスマンなどをしていた経験を持つ小野寺シェフならではのアイデアがOIGENの鉄器によって発揮されています。
小野寺シェフ
「すべての工程を鉄器で行うというより、事前に下準備したものを最後鉄器で仕上げることが多いです。うちではあまりソースを使わず、塩で味付けする料理が多いので食材本来の香りやジューシーさを鉄器によって活かすことができる。最後の仕上げに鉄器を使うのはかかせないですね」

温度の変化が少ないことからフランベに適していることや鉄器独特の火の通り方によって野菜の香りを活かした調理をできることが南部鉄器の特徴。小野寺シェフが意識している「旬なものを旬のうちに、シンプルな味付けで作る料理」のよさを鉄器は引き出しています。

小野寺シェフのレストランがOIGENから車で30分という近さと、シェフの気さくなお人柄もあって、OIGENはシェフととても親しくして頂いています。
小野寺シェフ
食を中心にした地域のイベント「風土・Food・風人」にはフレンチの伊藤勝康シェフ(ロレオール田野畑)、和食の和賀公靖料理長(新茶家)と共に事前の打合せから当日もまるまる一日、一緒に参加して頂いています。
風土イベント 対談
また、OIGENの台湾でのセールスプロモーションの動画制作では、アウトドアで炭火を使ってほろほろ鳥をローストしていただきました。

小野寺さんが独自に考えた鉄器

また、ときよじせつONODERAには小野寺シェフの料理に合わせて独自に製造した鉄器があります。
小野寺シェフ
「この焼き網は『網を使いたい』という考えがきっかけになって製造していただいたものです。私が一番好きなのは直火で調理した野菜。ただ店でやろうとして、コンロの上に直接網を置くと火が近すぎて調理がしづらい。そこで網の高さが調整できる道具をOIGENさんに相談して造っていただきました」

鉄で造ったフレームによって、網の高さを調整することのできるこの鉄器は、クックトップ丸深型につけることで、熱源を炭や薪にして使うこともできます。小野寺シェフはこの鉄器を「料理に炭の香りをつけて、カリッと焼きたい時に使っている」といいます。
小野寺シェフ
このコンロは、2020年2月のホテルレストランショーで発表。一番の注目を集めて、今では商品化しています。

「さらにこの鉄器を使ってでた灰は、別の鉄鍋に貯めて、灰焼きをする時に使っています。イタリアに灰焼きの文化があるんですが、それに習って灰の中にさつまいもやじゃがいもを入れて焼くとホクホクになってすごいおいしいんですよ」

まとめ

小野寺シェフ
鉄器の使い方や調理方法を日々試行錯誤しながら、料理に取り組んでいる小野寺シェフ。小野寺シェフの特徴はそうした柔軟さや料理を探求しようとする積極的な姿勢にあります。

「いろんなシェフの調理法を見て、刺激を受けています。いいなと思ったら自分も一度真似してみるようにしているんです。そこで自分に合うか、合わないかを判断する。どんなこともまずは面白がってやってみてるんですよ」

そうした料理への姿勢は「自分も愉しみながら、お客さんを楽しませるのが一番いいこと」という小野寺シェフの考えが根本にあるようです。「季節を大切にし、出会いを楽しむ」、一つひとつの食材を十分に活かした“ときよじせつONODERA”の鉄器で作るイタリアンをみなさんもぜひ味わってみてください。

インタビュー日:2020年8月30日

文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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