料理人に聞く

地方だからこそできること:ダ・サスィーノ 笹森通彰シェフ

笹森通彰シェフ

春になると全国から200万人以上の観光客が訪れ、賑わいを見せる「弘前さくらまつり」で有名な青森県弘前市。その弘前公園のさくら祭りのほか、ねぷたまつりや趣のある洋風建築物で有名な城下町:弘前で2003年から地元の人はもちろん、全国から多くの人が訪れ、料理で食べた人を魅了しているイタリアンレストランがある。お店で提供する野菜や食材の一部を自らつくることだけに留まらず、ワイナリーに挑戦し自家製ワインにも情熱を注ぐ、青森県弘前市出身の笹森通彰シェフの「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」だ。

すでにお店でOIGEN鉄器をご使用頂いている笹森シェフより、ある新商品の製作のお話を頂いたのは2020年春頃。コラボ商品の製作の打ち合わせで数回、弘前を訪れた際に笹森シェフの料理人としての考え方やOIGEN鉄器との出会い、そして「アップルパイクッカー」誕生の背景についてお話を伺った。

笹森通彰シェフ

【経歴】

1973年 青森県弘前市生まれ
専門学生時代のイタリアン料理店(仙台)でのアルバイトをきっかけに料理の道へ。専門学校を卒業後、仙台のイタリア料理店、都内の有名店で計7年修行をする。
2001年 渡伊。イタリアのいくつかの有名店にて2年半修行する。
2003年 帰国。地元である弘前に「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」をオープンする。

【受賞歴】

2014年 農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズクラス受賞
2019年 農水省料理人顕彰制度「料理マスターズシルバークラス受賞
その他、TVや雑誌をはじめとして多くのメディア取材も受ける。
 

目次

1 料理人としての想い:地方だからこそできること
2 OIGEN鉄器との出会い
3 アップルパイクッカー誕生まで

 
OIGENがつくる南部鉄器は、何十年、はたまた100年近くも使い続けられる生活の道具だ。使い捨てや大量生産・大量消費が主だった生産活動のピークを経て、環境やモノの価値、伝統・風土が半ばないがしろにされてしまっていた状況に徐々に違和感や危機感を抱く人が増えた今日、「工芸品やそれぞれの地域だからこそ価値のあるモノってやっぱり良いよね」と若い世代を中心にファンが増えつつあるのを実感している。

「消費の中心地である大都市ではなく、地方からモノやコトを発信し、ヒトをここに呼び込みたい」

岩手県奥州市で100年以上鉄器をつくり続けてきたOIGENの想いと、青森県弘前市という同じく北東北の一地方で料理を提供する笹森シェフの料理人としての想いには何か相通じるものがあるのではないか。そんな期待をしながら、念願の笹森シェフへのインタビューが実現した。
 

「当たり前のことをしているだけ」
地方だからこそできること

―ずっと長く使い続けられ、たとえ壊れたとしても再度溶かして生まれ変わる鉄器はまさしく「サステナブル:持続可能な/持続できる」な道具です。自ら野菜やお米、ワインもつくる笹森シェフは、生産現場に非常に近いシェフだと思うのですが、昨今注目されている食の安全や(食をとりまく環境における)サステナブルについてはどのように思っていますか。―

今でこそ「サステナブル」とか注目されているけど、本来は昔から当たり前にやっていることですよね。自分は特に意識はしていなくて、地方はずっと前からしている「当たり前のこと」なのかなって。

例えば、牛乳からチーズを作る際に出るホエーは捨てずに畑に撒いたり、近くの農場の仔牛に飲ませたいという要望があれば届けに行くことができる。例えば、ワインを作る際に出るぶどうのカスは、餌として豚の生産者さんに届けに行くこともできる。例えば、近くに野菜を獲りすぎた生産者さんがいれば、自分が行って野菜を買って、加工(調理)し提供することができる(=廃棄を防ぐことができる)。

循環させる仕組みが元々あるのは地方の強みですし、フードマイレージをいかにゼロにするか、いかにゼロに近づけるかが大切だと思っていて、それができるのは地方ですよね。
笹森通彰シェフ

―昨今注目されている「サステナブル」な活動や考え方は、今に始まったことではなく、地方に昔から根付く生活そのもの(=「当たり前のこと」)だと語る笹森シェフの言葉は、岩手という地で鉄器づくりを続ける私たちにとっても「ここで頑張る」意味と「ここだからこそ出来る」強みを再認識する”励み”となる言葉だった。―
 
 
―30歳までに独立をすると決め、専門学校を卒業してからの約10年間、計画通りに仙台や東京、イタリア各地での修行に挑戦・達成している笹森シェフの人生設計と実行力は簡単に真似できるものじゃないなと感心しかなくて。一体どうやったらシェフのように有言実行できますかね。また、このインタビュー記事(OIGEN:料理人に聞く)は一般の方々はもちろん、シェフや飲食店関係の方々にも見て欲しいコンテンツです。若手料理人やこれから料理人を目指す方々にアドバイスがあれば是非お願いします。―

(何をするか)決めて自分を縛らないととすぐに逃げちゃうんで…。本当はサボりくせがあるんですよ。
(次世代の料理人やこれから料理人を目指す方々に対しては、)自分のお店を持つことも考えているなら、経営をちゃんと勉強することが大事かな。美味しい料理を作るだけでなく、お店を続けて行くマネジメント力が本当に大事だと思います。
笹森通彰シェフ
―「何歳までに何をしたいか、そのために今何が必要なのか」という計画を立て、徹底的に自分を縛り実行していく。笹森シェフは「サボりくせがあるから」と謙遜していたが、そのストイックな姿勢があるからこそ、「ダ・サスィーノ」は2003年のオープン以来、市内や県内に留まることなく、全国各地から人を呼ぶレストランに成り得たのではないだろうか。
そして、「あまり夢のあるアドバイスではなくてすみません」と前置きをして答えてくださった若手料理人へのアドバイスは、「お店を続けていくこと」の現実的な厳しさや大変さを身を持って経験している、一経営者としての笹森シェフだからこそ語れる、リアルで重みのある言葉だった。―

笹森シェフの経歴や料理人としての想いは、すでに雑誌やTV、WEB記事等でより詳しく紹介されている。今回私たちは、同じ北東北で料理、はたまた鉄器を”つくる”立場として通ずる想いがあるのかを主に、笹森シェフの考えに迫った。次章では、「ダ・サスィーノ」ですでにご愛用頂いているOIGEN鉄器を使うきっかけや決め手について何だったのか尋ねてみた。

 
 

OIGEN鉄器との出会い
きっかけは黒い鉄のうつわ

笹森通彰シェフ
ダ・サスィーノでは現在、鉄プレート・鉄の器のほか蓋つきの両手鍋「クックトップ丸深形24cm」を使って頂いている。OIGEN鉄器を知ったきっかけは何だったのか、そしてお店で使用している決め手は何だったのかを尋ねてみた。

「あまり詳しくは覚えていませんが…」と前置きを入れつつ、OIGEN鉄器を使うきっかけを話してくださった。

『洋食屋さんで一般的に使われる食器と言えば、”白い磁器製”のイメージが強い。お店で使っている食器も白ばっかりで…。地元の木工屋さんや陶芸をしている方へ声をかけたりと、今までとは違う新しい”うつわ“を探していたのがきっかけでしたね。ネットでも探していて、その時、偶然見つけたのがOIGENさんでした。磁器製の食器ではなかなか目にしない、鉄器ならではの”黒い色“が良いなと』
笹森通彰シェフ

たまたまインターネットで見つけたOIGEN鉄器。洋食屋さんで使われる”うつわ“としては一般的ではない、そのユニークな”黒い鉄製”のうつわを目にし、白い食器では表現できない「黒に映える料理」のイメージが浮かんだという。

”黒“というカラーに加えて、笹森シェフが気に入ったのは、絶妙なサイズ感とボウル形(鉄の器)のデザイン。鉄プレート・鉄の器はサイズバリエーション豊富な6サイズ展開で、お店の規模や雰囲気、提供する料理に合わせて“ぴったり”な大きさを選べる点が、レストラン関係の方々からの人気が高い理由のひとつ。さらに、両手で包み込めたくなるような柔らかな丸みを帯びた個性的なボウル形(鉄の器)にも惹かれたという。

『あとは…壊れない!一生使える。もちろん、“うつわ“でありながら加熱できる点も鉄器ならではですよね。色々な使い方が出来て面白い。』

最近はもっぱら“うつわ“としてのみ使っているとのことだったが、以前は実際に鉄の器でグラタンを提供していたこともあるとのこと。笹森シェフがつくる、鉄器で提供される熱々のグラタンを想像し、「ぜひ食べてみたかった…」と惜しい気持ちをグッと押さえインタビューを続けるOIGENスタッフだった。
 
 

青森の特産「りんご」× 岩手の伝統品「南部鉄器」
北東北の名産品がコラボ「アップルパイクッカー」誕生まで

笹森通彰シェフ
2021年1月に新発売した「アップルパイクッカー」は、オーブンありきだった「アップルパイ」がご家庭のガスコンロで作れる、ユニークな南部鉄器のお菓子道具。たい焼きをつくる「たみさんのたい焼器」やガスコンロで本格的なパンが焼ける「タミパン」、そして年々人気が高まる「ホットサンドメーカー」や「ホットサンドクッカー」に続く、つくる・食べる時間を”愉しむ“が詰まった、OIGENらしいユニークな鉄器のニューフェイスとして期待大の商品。

その「アップルパイクッカー」の誕生のきっかけは、実は笹森シェフからのお声掛けがはじまり。

2020年春のある日、笹森シェフより「りんごを使ったデザートを南部鉄器でつくりたい。OIGENさんでオリジナルの焼き器はつくれないだろうか」という連絡が来た。2020年3月中旬、詳しい話を聞きに弘前の笹森シェフを訪ねた。
笹森通彰シェフ
詳細を聞くと、
『2020年夏頃に弘前にオープンする施設(弘前れんが倉庫美術館)のカフェ(CAFE & RESTAURANT BRICK)からりんごを使ったデザートのレシピ提供を依頼されている。折角なので、ただのりんごのデザートではなく、何か面白い形で提供できないかと…。そこで思いついたのが、りんごの形をかたどった南部鉄器の焼き器でりんご形のアップルパイをつくる!』
とのこと。何とも”面白い“ご依頼に私たちOIGENスタッフもりんごの形をした新しい鉄器の完成をワクワクしながら想像した。

その後、どんなデザインの製品にするか話し合いを進め、最終的に「2個のりんごの実をかたどった、鉄製のオリジナル焼き器」の製作が決定した。「たみさんのたい焼器」や「ホットサンドクッカー」のように、開閉がラクにできるような柄つきで、具材が入れ込みやすく、洗いやすさもあるボディが二つに分かれる仕様だ。

使い勝手だけではなく、りんごの枝や葉の部分もしっかり焼き上がるようなデザインと、食べ応えがあり、より美味しさを感じる適度な厚みのアップルパイを目指し、(焼き面の)りんごの実の部分の膨らみにもこだわっている。

笹森通彰シェフ
話し合いから約4ヶ月後の2020年夏頃、笹森シェフとレシピを提供するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK(弘前れんが倉庫美術館隣接)」さんからご依頼頂いたオリジナルのりんご形焼き器5点が完成した。その後、「オーブンではなく、おうちのガスコンロでもお手軽にアップルパイがつくれる」南部鉄器のお菓子道具として、およそ1年をかけ、2021年1月に「アップルパイクッカー」という名でOIGEN商品に仲間入りした。

笹森通彰シェフ

【写真提供:CAFE & RESTAURANT BRICK

アップルパイクッカーでつくる、笹森シェフ監修の本格「アップルパイ」は、青森県弘前市にある「弘前れんが倉庫美術館」に隣接したカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」にて提供中です。また、カフェとともに展開するショップ「MUSEUM SHOP HIROSAKI MOCA」でもアップルパイクッカーを販売中です。弘前れんが倉庫美術館にお立ち寄りの際は、ぜひアップルパイやアップルパイクッカーもチェックしてみてください。
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