風土よみもの

人もモノも巡る、地域循環型プロジェクト

 

岩手県奥州市でお米を起点とした地域循環型プロジェクトに取り組む「マイムマイム奥州」。100年後の農村のあり方を考えながら、「人もモノも循環することで100年先も1000年先も生き続けるまち」づくりを目指している団体です。

休耕田を活用し栽培した無農薬・無化学肥料の飼料用米を発酵、蒸留し、米発酵エタノールを製造。抽出したエタノールの発酵粕である米もろみ粕は、石けんの原料として利用されるほか、採卵鶏のエサに。ニワトリの糞は、良質な肥料になり新たな食用米の栽培に活用。農事組合法人や養鶏場など4つの事業所が関わり合うことで、循環型農業が実践されています。

今回のインタビューでは、マイムマイム奥州の取り組みが始まった経緯や現在の活動内容をお聞きするために、代表の及川久仁江さんにお話を伺いました。

地域循環型農業はどのようにして生まれ、活動を続けてきたのか。 お話をお聞きすると、団体結成のきっかけのひとつに及源鋳造株式会社(以下、OIGEN)の南部鉄器が関わっていたことがわかりました。

-久仁江さんプロフィール-
奥州市胆沢区出身。1963年生まれ。23歳から農業に従事。「農家民泊まやごや」の女将や」マイムマイム奥州」代表を務めるなど、農山村再生に取り組んでいる。

活動の数々は 南部鉄製のぬか釜から始まった

「マイムマイム奥州が団体名を付けて活動を始めたのは、2011年。ちょうどその頃、私は東日本大震災が起きた影響をきっかけに、それまで取り組んでいた活動を振り返りながら、自分の無力さを感じていたんです」

自身で農業を営みながら、東日本大震災が起きた2011年3月以前はグリーンツーリズムによる地域活性化を目指して活動していた及川さん。旧胆沢町(現:奥州市胆沢区)で産直や民宿、農家レストランなどを立ち上げ、活動していたものの「地域が思ったより変わらなかった」ことや東日本大震災で受けた社会への影響から、それまで行っていた地域内での活動に限界を感じていたと言います。 しかし、「このままじゃいけない、自分がなんとかしないと」と及川さんは範囲を地域内に限定しない「もっと広く仲間を増やす活動」に取り組み始めます。

「そこで、まずできることから始めようと動いたのが、今は一般に使われていない『ぬか釜』の再生プロジェクト。それまでずっと自分の中で温めていたアイデアをOIGEN 代表取締役の及川久仁子さんに伝えたら、すぐに『いいよ』ってお返事をいただいて、南部鉄製のぬか釜を作っていただいたんです」

 

ぬか釜とは、もみ殻を燃料に羽釜でご飯を炊く、昔使われていた炊飯器のこと。震災が起きた当初、停電が起きていた中、自宅で薪ストーブや薪ボイラーを使用していた及川さんは同じように電気に頼らない「ぬか釜」をイベントなどで活用し周知することで「地域内外の多くの人に伝えられることがあるのではないか」と考え、OIGENと協力し、南部鉄製のぬか釜を製造しました。

「『ぬか釜の再生プロジェクト』をきっかけに、次々と他のプロジェクトも動き始めましたね。OIGENと協力し行っている『風土・food・風人』もそのひとつ。久仁子さんから県内の料理人の方々などを紹介していただきながら、『食』にまつわる地域の人と地域外の人が繋がって生まれた企画です」

インタビューのはじめにお話いただいた「マイムマイム奥州が団体名を付けて活動を始めた」のも、ちょうど同じ時期のことでした。

「マイムマイム奥州が取り組む循環型農業が生まれたのは、今から15年以上前に動き始めた『米からエタノールを製造する実証実験』がきっかけです。実証実験を進めながら、それまでプロジェクトに関わっていたメンバーが一緒になってチームを結成しました」

旧胆沢町の農家が集まって組織した「新時代の胆沢型農業を考える会」と自治体、東京農業大学が協働して取り組んでいた、米を発酵しエタノールを製造する実証実験。当初、精製したエタノールは農機具用の燃料として使用する計画だったものの、採算性などを考慮し、高付加価値のつく活用方法を検討。その結果、無農薬米でできたトレーサビリティのあるエタノールが製造されるようになり、現在取り組む循環型農業の形が確立されました。

「助かる、ありがとう」が 連鎖して生まれたプロジェクト。

「マイムマイム奥州というチーム名はよくキャンプファイヤーで踊る、イスラエルの民謡『マイムマイム』が由来になっています。ひとつの円になって踊る様子を私たちの取り組みに重ねて名付けたのですが、後から調べてみたらマイムマイムはヘブライ語で『水』を意味する言葉だということがわかって。『たしかに私たちの取り組みには水が重要だね』ってみんなで興奮しましたね」

マイムマイム奥州の循環型農業に取り組んでいるのは、及川さんが運営する「農家民泊まやごや」、「まっちゃんたまご(松本養鶏場)」、「農事組合法人アグリ笹森」、「株式会社ファーメンステーション」の4者。それぞれのメンバーが集まり、循環型農業が始まったのは「自然に生まれたこと」と及川さんは話します。

「本当に知らないうちにできていたっていう感覚なんです。つくろうと思って、つくったものではありません。農業を営む上で自分たちが当たり前だと思っていたことを続けていたら自然と今のメンバーが集まって、循環が生まれていたんです」

米の栽培や養鶏、エタノールの製造など、メンバーそれぞれの日常的に行っていることが偶発的に繋がって、生まれた循環型農業。取り組みの中では、モノだけでなく各事業所の想いも循環されているようです。

「自分にとって必要なもの、相手が求めているものをお互いに送り合っていたら今の形ができた。みんなの『助かる、ありがとう』の気持ちが循環してできあがっているんですよ」

これからも私たちが 行きたいところに向かっていく

現在はプロジェクトの視察ツアーや耕作放棄地を活用した「ひまわりから油をつくるプロジェクト」など、循環型農業を軸に活動の幅を広げているマイムマイム奥州。それぞれの企画には県内外、また海外から参加する方も多くいます。

今年で活動開始から9年目を迎え、これからはどんなことに取り組もうと考えているのでしょうか。

「私たちはこれまでこのチーム自体を大きくしようと活動を続けてきたわけではありません。そのスタンスは変えずに、メンバーそれぞれの得意なことを活かしながら、みんなが思う愉しいことを実現していけるといいですね。これからも私たちが行きたいところに自然と向かっていくんだと思っています」

マイムマイム奥州の取り組みの中から生まれる様々な資源と同じように、有限資源である鉄を使用したOIGENの南部鉄器も持続可能な循環の中にあるモノのひとつです。長期間使用できる品質やデザイン性を持ちながら、不要になったら溶かして別のモノを作ることで、鉄を循環。また、鉄器を作る際に使う砂型も、作る製品に合わせて形を変えながら継続的に使用しています。

OIGENとマイムマイム奥州、それぞれ循環の形は違うものの、「持続可能な社会」の実現に向けた活動のベクトルは同じ。

「愉しいことを実現する」マイムマイム奥州の活動は、今、地域内で起きている循環の輪を地域の外で生み出すきっかけをつくり、また、モノだけでなく多くの人へ伝わって、未来へ大きな影響を与えながら、これからさらに循環の輪を広げていきます。

文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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