及源鋳造のものづくり

Palma開発秘話「伊藤シェフとジャスパーモリソン」

2011年3月11日 大きな揺れが東北を襲い、未曽有の被害をもたらした東日本大震災。
内陸にあった及源鋳造も大きな揺れを受け、社員全員の大変な毎日が始まっていました。
生活が一変した中で、ものづくりをし続ける毎日が続いたある日、ジャパンクリエイティブ(JC)と名乗る女性から1本の電話が・・・。
「日本のものづくりをデザインという視点でとらえ直し、その創造性を世界にプレゼンテーションしていく活動をしています。参加していただけませんか?」
「??世界?プレゼンテーション??」とあっけにとられた私に、
「JCにOIGENを紹介してくれたのは、前にOIGENさんと一緒に仕事をしたことのあるデザイナーの○○さんです。」と彼女はゆっくりと言いました。
「あー。彼が紹介してくれたのか!」

それは、世界で活躍しているデザイナーと日本のものづくりをマッチングさせて、日本の新しいものづくりをして行くプロジェクト-東日本大震災への応援と言う意味もありました。OIGENはありがたく参加させていただくこととしたのです。

2011年12月27日 ジャスパー・モリソンがOIGENにやってきた!

OIGENとマッチングをするデザイナーのお名前を聞いて、東京にいる知人に話しましたところ、開口一番「ジャスパーが来る!!??何をしたんだ!!」と電話口で大きな声を出されました。
ですよね。
あのジャスパー・モリソン氏が私たちのパートナーだったのですから。
2011年も押し迫った12月27日、JCのスタッフとジャスパー・モリソン氏がOIGENに現れました。
工場の見学をして、OIGENの技術のレベルと、ショップでOIGENの商品のクオリティをじっくり見て頂きました。

実は、私には、ジャスパーさんに会ってほしい人がいました。
津波で壊滅的な被害を被った沿岸市町村に、毎週炊き出しに通っていた地域のシェフ「伊藤勝康」さんです。
彼のレストランは、平日は通常のレストランでありながら、土曜日は全国から集まってきたシェフたちの仕込みの場所となり、日曜日は沿岸に炊き出しに行く出発点となっていました。
私はジャスパーさんに「伊藤さんが喜んで使う鍋を作ってくれたら、それが大きな復興の応援になる。シェフの料理は安心の証だから」その想いを伝えたかったのです。
「世界のジャスパーにリクエストをすることはないよ。必ず素晴らしいデザインをしてくれる」とも言われましたが、「伝える!」と心に決めて、伊藤さんのレストランに皆さんを連れて出かけました。

ランチを食べた後、ジャスパーさんが言いました。
「キッチンに行けるかな?」
伊藤シェフはキッチンのガス台の前にいて、私たちを迎え入れてくれました。
通訳のできるジャスパーさんのブレーンを介して、伊藤シェフに彼は質問をしていました。

ちなみに、伊藤シェフは、後にテレビのアイアンシェフ(料理の鉄人の復活版)に出演し、アイアンシェフに勝利した方で、農水省の料理マスターズのシルバー賞を受賞しています。
南部鉄器を使わせたら日本でも指折りのシェフの一人で、OIGENは震災の前から新商品を使って頂いたり、撮影に協力して頂いたりと、親しくさせて頂いていました


レストランからOIGENに戻った時、ジャスパーさんが私に近づいてきて、言いました。
「君のプレゼンテーションはよくわかった。僕は伊藤シェフが喜んでくれる鍋をデザインするよ」
やったー!!!!!!!
シェフ待っててください!!!待っててください東北!!

その後、ジャスパーさんから図面が届き、OIGENは大騒ぎ!
2012年4月のミラノサローネに出展するというのです。
デザインは5点。中には超難しい「ケトル」も(-_-;)



(ミラノサローネ出展の様子 写真提供 Nacasa&Partners)

ここではその「ものづくり苦労話」は置いておきますが、最終的に、ギリギリまでかかった「ケトル」を専務の及川がトランクに入れてミラノまで届けて、間に合わせました。
彼はこのPalmaの展示の前でジャスパーさんにサインを頂き、一緒に写真に納まり、ものづくりの完成と歓声を受けたのでした。

Palmaという名前はジャスパーさんが付けました。
伊藤シェフのレストランでスパイスが小さなお皿3つに出てきたことを思い出して、スパイスコンテナーをデザインしたと言っていましたが、そのデザインがヤシの木だったのです。

そのデザインは、「ケトル」の蓋のつまみにも使われています。

さて、フライパンの試作ができた時に、真っ先に伊藤シェフにお届けしたのですが、折り返し電話がかかってきて、
「及川さん、すごくいいね! そして、なぜ軽いの?」というのです。
「いえいえ、作り方は変えてませんし、重さは通常のフライパンと変わりませんよ。」
「いや、軽いんだよね。使うと」

それから数カ月後、東京でジャスパーさんにお会いした時に、伊藤シェフからの言葉を伝えました。「なぜ軽いのか?」
彼は、にやっと笑って、答えてはくれませんでした。

今、伊藤さんのレストランには、Palmaのフライパンが7台きれいに重なって、ガス台の前においてあり、オーダーが入るとお客様の目の前でいい音を出しながら熱を食材に伝えて行きます。



「日本中のイベントや海外のイベントにも必ず持って行くよ。片腕だからね」

後にJCの冊子をみるとジャスパーさんは「とても寒いところだったけれど、OIGENの人たちはみんな温かかった」と言ってます。

鉄鋳物の調理道具は体にいいし、料理はおいしくて一生使える。僕がデザインしたいのは2~3年しかもたないこびりつかないフライパンではなく、こんな本物の道具なんだ。それに、美しい昔ながらのものづくりを、僕が元気づけられたら、とても幸せだよね」

(エル・デコ(ELLE DECOR)No.119)

Palmaは、デザインのプロと料理のプロとの出会いからできたのです。
OIGENの商品開発の中でも、独特です。
Palmaは今、4点の新しいアイテムを加えて、9点のシリーズとなっています。

OIGENのスタッフがロンドンに行った時には、ジャスパーショップに必ず立ち寄ります。
ジャスパーさんがいる時は、事務所からわざわざ出てきてくれて、お話をしてくれます。
このジャスパーショップにOIGENで作ったPalmaが並んでいるわけですよ。彼のデザインした優れたスーパーノーマルたちと一緒に。なんて幸せなOIGENなんだ!

最後に、ジャパンクリエイティブ代表の廣村正彰さんからコメントを頂きましたのでご紹介いたします。
廣村さんは、すみだ水族館やブリジストン美術館、東京2020スポーツピクトグラムの開発も手がけられたグラフィックデザイナーです。

OIGENさんはジャパンクリエイティブ(JC)の1番最初のプロジェクトなんです。

出会いは、JC発足について協議を重ねている最中に起きた東日本大震災で、
メンバーはプロジェクトを東北から始めたいという気持ちが強くあり、
様々なリサーチとご縁から、南部鉄器=OIGENさんに辿り着きました。
工場、技術、素材、水沢という土地の背景や歴史、つくり手の想いを知り、その特性を活かせるデザイナーは誰か、JCはそのマッチングをとても重要と考えていて、OIGENさんと同じ「使い手を第一に考える実直なものづくり」のスタンスを持つ、イギリス人のジャスパー・モリソンにお願いしました。そして両者はきっと共鳴し合うだろうとの思惑は的中しました。
OIGENさんは、デザイン提案に対してPalmaを「つくるため」の「つくり方」を提案してくれました。デザイナーの問いかけに見事に呼応してくれたのです。
2012年ミラノでプロトタイプを発表、製品化へと進み、その後にもフライパンを担いで海外のシェフ達にリサーチに行ったと聞いたときは驚きと喜びで皆胸がいっぱいになりました。JCの仲間たちとも交流を重ねてくれて、2017年には、テーブルウェアのPalma新シリーズへと発展したのです。
どのプロジェクトも、日本が誇る技術や素材を持つ「つくり手」ですが、出会いとチャンスを最大限に活かして挑戦を続け、大切に育てていくことが不可欠なのだとおしえてくれたのがOIGENさんでした。

JC
ジャパンクリエイティブ 
代表理事 廣村正彰


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