美しい雑音
南部鉄瓶「びわ」と「つづみ」は、日本古来より親しまれてきた伝統的な楽器「琵琶」と「鼓」の2種をモチーフにデザインしました。弦楽器の繊細で上品な音色と、打楽器の豪快で力強い音色を、鉄瓶で表現しています。
楽器の演奏時、雑音も「美」として認めてきた日本ならではの美意識は、時と共に味わい深く変化する鉄も同様です。使い込む愉しさと、経年変化の美しさを大切にした及源鋳造らしい南部鉄瓶です。
難航した制作
びわとつづみは、南部鉄瓶の伝統的な制作技法である焼型で作られています。型作りから注湯、 仕上げまで、職人が一貫して行っております。
縦に長い形状は、平たい鉄瓶と比べ型作りが難しく、中でも難航した制作工程が、細く長い注ぎ口の型作りと、それを胴の型に設置する作業です。注ぎ口は、注ぐ湯量を調整しやすくするために細く設計しました。
注ぎ口の型は、胴の型とは別に作り、後から本体の砂型に埋め込みます。胴の型も細く深さがあるため、そこに長い注ぎ口の型を、傾きのないように真っ直ぐ埋め込む作業は、とても難航しました。
注ぎ口の中子 ( 内部を空洞にするための砂型 ) も細いため、少しでも傾いていると穴が空いてしまいます。繊細で非常に難しい作業の分だけ、うまく出来上がった時の喜びもひとしおです。
こだわりのディテール
素材に表情を出すため、漆や錆を鉄肌に焼き付けています。蓋の色を変えることによって、明るめの錆色が差し色として、落ち着いた中にも柔らかさやおもしろさを感じさせ、見た目にも愉しむことができます。
蓋のつまみは虫食いという技法を取り入れて作りました。中が空洞なので熱くなりにくいことと、一つ一つ異なる表情が伝統的な鉄の造形美を感じさせます。
鉄瓶の持ち手を鉉 ( ツル ) と言います。専門の鉉職人と相談し、鉄瓶に合わせて一本一本制作します。びわとつづみの鉉は、持ち上げた時にグリップ感を失わないように幅は保ちつつ、平たくたたくことでスマートに仕上げました。また滑りにくく、風合いが増すように表面を無骨に荒らしています。
南部鉄瓶には、一般的な無垢鉉をはじめ、中を空洞にした袋鉉や、名の通り持ち手部分をひねった、ひねり鉉など様々な造形方法があります。鉉は鉄瓶の個性を活かす大事な要素の 1 つです。
愉しむ自分の時間
南部鉄瓶といえば、お茶や茶室の印象が強い道具ですが、すらりと縦に長いびわとつづみは、ドリップコーヒーも淹れやすく、和洋問わず使用する場を選びません。
木工品やガラス、セラミックやプラスチック製品などの異素材と組み合わせることで、より鉄の素材感が引き立ち、インテリアアイテムとしての魅力も発揮します。
慌ただしい日々の中で、一日の始まりに、一日の終わりに「びわ」と「つづみ」で湯を沸かし、自分だけの時間をゆっくりと愉しんでください。