風土よみもの

阿部自然農園・阿部知里さん:自然と人がともにつくる、お米。

岩手県奥州市胆沢若柳でお米を自然栽培している、阿部自然農園の阿部知里さん。今はお母さまと二人で12ヘクタールの田んぼを管理しながら、大豆や野菜などの栽培も行っています。

阿部さんが行っているお米の「自然栽培」は、農薬や肥料、堆肥を使わない栽培方法のこと。多くの人が安心して食べられるお米を作りながら、田んぼの周りの生き物や土壌がこれからも持続可能な環境を目指す、その姿勢はOIGENの南部鉄器づくりにも通じるところがあります。

今回のインタビューでお聞きしたのは、阿部さんが農業を始めたきっかけやお米の自然栽培に取り組む想いについて。場所は阿部さんのご自宅で。阿部さんお気に入りのジュースやコーヒー、お茶をいただきながら、まずは農業を始めるまでの経緯からお話していただきました。

<阿部さんプロフィール>

岩手県奥州市胆沢出身。1966年生まれ。1999年に兼業農家として農業に携わり始めると、2004年に当時勤めていた会社を退職し、専業で農業に従事。2006年から米の自然栽培に取り組み始め、現在は12ヘクタールの田んぼ(内5ヘクタール分が自然栽培)を管理する。「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」で受賞歴多数。

自然と人の手のバランスを探しながら

阿部さんが農業に取り組み始めたのは、1999年。地元の高校を卒業後、県内の高校で実習助手を務めた後に東京へ引っ越し。東京で13年生活した後に、Uターンしてから兼業農家として農業に携わるようになりました。専業農家になったのは、それから5年後の2004年のこと。お米の自然栽培を始めるきっかけになったのは、インターネットで知った農業の研修会がきっかけでした。

「兼業農家をしながら、今まで実家で行われていた農業をそのまま引き継ぐのは、少し違和感があるなと思ったんです。そこで専業農家になる上で、どんなことができるといいか考えた時に、昔食べたお米のおいしさを思い出しました。当時は「ササニシキ」という品種が主流で、農薬をほとんど使わずに栽培が行われていた。そこで当時のお米の味を再現できたらと、農薬や肥料を使わない栽培方法に興味を持って、インターネットで検索してみたらちょうど1週間後に千葉県で研修会が行われることを知ったんです」

農薬や肥料を使わないお米の栽培がどのような方法で行われているのか。参加した研修会では、無農薬でりんごを栽培し、映画「奇跡のリンゴ」にも取り上げられた木村秋則さんなどの講師の話を聞きながら、無農薬栽培や有機栽培について学んだ阿部さん。研修会の中で「腑に落ちることがあった」と言います。

「研修会の中で『作物に虫がつきやすい原因は、実は肥料にある』という話を聞いたんです。確かに近所の田んぼを見てみると、たくさん肥料を与えている場所ほど虫がついて、それを抑制するために農薬を多く使っていたり、雑草が大量に生えていたり。また、それを抑えるために他の強い薬をかけていたりするなと納得しました。肥料や農薬を与えることが、土壌のバランスを崩すことに繋がって、より大量の肥料や農薬を必要とする農業が行われていることを知りました」

研修会を通して、もともと違和感を感じていた農業の原因を知った阿部さんはその他にも東京都や秋田県で行われた研修会に参加。経営面なども考慮しながら、着手する時期を検討し、2006年にまずは1枚の田んぼを使ってお米の自然栽培に取り組み始めました。

「まず取り組んだのは土作りと種の採取です。田んぼや米の種から、それまで使われていた農薬や肥料を時間をかけて取り除く作業を行いました。その後は、ほんとにシンプルな作業です。田起こしをして、水をいれて、代掻きをして、田植えして、除草機で2,3回田んぼに入って、あとは稲刈り。自然栽培という言葉通り、自然のまま手をつけないところと栽培として人の手を入れるところのバランスを探しながら、継続的に行える農業に取り組んでいます」

感じたことを、感じたままに

阿部さんがお米の無農薬栽培に取り組み始めて、今年で13年目。「幼い頃に食べたお米の味を再現したい」と自然栽培に興味を持ったきっかけとは別の農業に対する想いが芽生え始めているそうです。

「農業を続けていると、どんどん意欲が湧いてきて、現状では満足できなくなっていくんですよね。今は自分がおいしいと感じられるものを作りたいという気持ちとより多くの人が安心して食べられるようなお米を作りたいという気持ちの二つが重なって、より強い想いを持って自然栽培に取り組んでいます。私の育てたお米を食べていただいた方からも感想が届くようになってきたので、期待を裏切りたくないなという想いもありますね」

お米の食味を審査する「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」で多数の受賞歴を誇るなど、阿部さんのお米ファンは全国各地に広がっています。

OIGENの主催するイベント「風土・food・風人」でも阿部さんのお米は大人気。イベントでは、OIGENの製造したぬか釜を使って、阿部さんのお米を炊いています。

そうして阿部さんのお米を食べた多くの方々からの言葉を受けて、阿部さんは農業へのやりがいを感じながら、これからのお米作りにますます意気込みます。

「基本的な作業を抑えながら、自分の感じたままにやっていけたらいいなと思っています。農業は、勉強することで得た知識を真似るだけではうまくいきません。田んぼの声や稲の声が聞こえるわけではないですが、自然を相手に自分の感じたことを、感じたままに実践しながら、お米を作り続けられるといいですね」

阿部さんのインタビュー中の雰囲気や言葉から、自然や人に対してのあたたかい優しさがとても伝わってきました。その優しさを持ちながら、阿部さんは農業を通して自然と関わり、多くの人が食べることのできる安心さとおいしさを追求したお米をこれからも作り続けていきます。

文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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