岩手県一関市大東町には、菜種を中心に昔ながらの手搾りで油を搾る油屋さんがあります。OIGENとその油屋さん『株式会社デクノボンズ』の小野寺伸吾さんが出会ったのは、OIGENが参加するイベント『風土・Food・風人』がきっかけでした。
今回は『株式会社デクノボンズ』の小野寺伸吾さんに、今までの活動内容や、手搾りで油を搾る理由などをお聞きしました。お話を伺う中で、“国産油の生産”という一つのものづくりが、循環型農業の取り組みの中にあること、そして、地域活性のきっかけとなっていることが見えてきました。
プロフィール
株式会社デクノボンズ 小野寺伸吾さん
2003年 有志5名により工房地あぶら設立
その後2009年に工房地あぶらが法人化し、株式会社デクノボンズが設立。
株式会社デクノボンズ公式Webサイトはこちら》
昔ながらの手搾り-ものづくりへのこだわり
「うちは素材の風味を残した油を作っています。原料によって風味が違うので、その風味を活かしたいなと思って。」
小野寺さんは『圧搾法』という昔ながらの製法で油を搾っています。現在市販の油のほとんどは、効率よく油を搾るために植物の種に溶剤を加えて搾られています。またこの方法は、作る工程で色や香りを取ってしまうのだそうです。一方圧搾法は、溶剤や添加物を使わず、種にギュッと力を加えて搾る方法。小野寺さんは福島の師匠から、この技術と共に機械を譲り受けました。
「食べるものなので、とても安心できるなって。あと搾る前に焙煎するのですが、その方は燃料に薪を使っていて。環境にも優しい搾り方で、すごく良い方法だなと思いました。」
小野寺さんも焙煎には地元の製材店で出た端材を使用。搾り終えた種も肥料や飼料に利用するなど、循環型農業に取り組んでいます。
あるのに活用しないのはもったいない!
資源があるのなら、なるべく有効活用しようという想いから循環型農業に取り組む小野寺さん。
「手元にある資源をどのようにして回して経営していったらいいのかなっていう思いもありますし、やっぱりそもそももったいないんですよね。」
そう言って、菜種を例に挙げてくださいました。
菜の花を栽培することによって町の景観が良くなり、観光資源となります。花からはハチミツが採れ、種から油を搾ることができ、搾り終えた種は肥料や飼料に活用されるとお話してくださいました。
なるほど!確かにこれは無駄がありません。
また小野寺さんは2021年に純国産のグレープシードオイルの開発に成功。近隣のワイナリーから出る残渣(ブドウから果汁を搾った後に出るブドウの皮や種など)を、地域の福祉作業所で加工し、小野寺さんが油を搾ります。捨ててしまうワインの残渣から、地域を繋ぐ新しい価値を見出したのです。
繋がる、広がる。人と風土
一関市の市の花は菜の花。江戸時代から、飢饉に備えて栽培を勧められたという歴史的背景がありますが、実は一時菜種の生産が0になったことも。昔は各家庭が持ち寄った菜種を油屋さんに搾ってもらい、持ち帰って使っていました。しかしスーパーなどで低価格の油が購入できるようになると共に菜種の栽培が減少。それに伴い油屋さんも無くなっていったと言います。
それでも株式会社デクノボンズの前身『工房地あぶら』が設立したのは、油屋さんが搾った油を食べた記憶のある、地域の農家さんたちがきっかけでした。農家さんたちの「昔食べた油をもう一度食べたい。」という強い想いから、菜種の栽培がスタート。その後福島の油屋さん(後の小野寺さんの師匠にとなる方)に搾油を依頼したことが、今の活動のきっかけとなりました。
「そこから、『なにやってるの?面白そうだね!』っていうことで、私もやりたいって活動が広がっていったという感じですね。」
「なかなかね、一人だけだと繋がりも限界があるんですけれど。こういう風にしたいんだ、こういうのを作りたいんだ!って言っていると、人も情報もうまく繋がっていくというか。私はそういったところでは本当に恵まれているなと思いますね。」
活動を始めてからもうすぐ20年。小野寺さんの活動が今後どのように広がっていったらいいかを伺いました。
「地域に好影響をもたらせるようになりたいですね。うちの原料はすべて国内産なので、扱う油の量が増えると当然原料も必要になります。そうなると菜の花畑やひまわり畑が増えて。景観が良くなることで、地域の活性化が目に見えて実感できるんです。もっとこの地域を良くしていけるよう、規模も大きくなっていければいいなと思います。」
「そして油と言えばデクノボンズという所を目指していきたいですね。」
農家さんと近いポジションで、消費者の方に油ができるまでの背景やストーリーを丁寧に伝えていきたい、とお話してくださいました。
小野寺さんはこれからも油を搾り続け、人と人、人と風土、畑と食卓を繋げながら、循環の輪を広げていきます。