木炭の生産量が全国の約3割を占め、日本一を誇る岩手県。その木炭とOIGENが造っている南部鉄器は深い関係を持っています。もともと鋳物を熔かすための熱源として木炭を使っていたり、直接鉄器を炭火に当てて料理ができたり、シェフの中には鉄器に真っ赤に燃えた炭を入れてコンロにして使っていたり。その相性のよさから、炭と鉄器はこれからさらに新しい使い方を探すことができる可能性を持っています。
今回紹介するのは炭の中でも、岩手県独自の構造を持つ岩手窯を使用してつくられる「岩手木炭」の歴史や特徴について。岩手県盛岡市に事務所を構える「一般社団法人岩手県木炭協会」に伺って、常務理事の和嶋 憲男さんと業務課担当課長の阿部 哲さんにお話をお聞きしました。
木炭の需要の変化
岩手の木炭の歴史は、平安時代・1100年頃から始まったと言われています。当時は陶器を焼く時の熱源として使われていましたが、その後時代が下って工業用一般燃料としての需要が高まりました。その需要に応えるように、炭の生産量は拡大し、大正元年には「木炭生産量日本一」の地位を確立しました。岩手県は鉄を使ったものづくりの盛んな土地柄で、南部鉄瓶や南部鉄器を作るための熱源としての需要が多いというのも他にない特徴です。
「昭和30年頃から、熱源としてのエネルギーが化石燃料に変わったことをきっかけに炭が使われる機会が少なくなりましたが、それまで最盛期にはおよそ24〜25万トンもの木炭が岩手で生産されていました」(和嶋さん)
(写真提供:(一社)岩手県木炭協会)
エネルギーの変換とともに、需要が減り、生産量が減少していった木炭。今の岩手県の生産量はおよそ3000トン弱になっています。現在、炭が使われているのは、飲食店などで調理に使う業務用やBBQなどの個人用がほとんど。昔に比べ、日常的に使われる機会は減りましたが、キャンプブームなどの後押しもあって、岩手木炭は今でも多くの人に使われているといいます。
「なんといっても炭のよさは遠赤外線の強さです。炭で食材を焼くと、一気に中まで火が通るので、旨味を逃さない。また、炭火の香りがつくのもいいですよね。コロナウイルス感染症が広がっている今の状況でも販売量は減らずに、たくさんの方に使っていただけています」(和嶋さん)
白炭と黒炭
岩手木炭のほかに、「備長炭」など炭の名前を聞いたことがある人もいると思います。それぞれ名前の異なる炭は、どんな違いを持っているのでしょうか?
「みなさんがよく聞く『備長炭』は白い炭・白炭の中でも上質なもののことを言います。本来備長炭は和歌山の紀州備長炭が本場。その他に高知県の土佐や宮崎県の日向でつくられています。一方で私たちがつくっている岩手木炭は黒い炭・黒炭。白炭と黒炭は原木の違いもありますが、製造方法が大きく異なります」(阿部さん)
備長炭などの白炭は、1000度以上の高温で炭化し、その後窯からかき出した炭に灰と砂を混ぜた消粉を被せることですばやく冷やしてつくる炭のこと。主に原木として樫の木が使われています。一方で、黒炭である岩手木炭は、約800℃でじっくり時間をかけて焼き上げ、その後窯の中を密閉し、約1週間自然に冷やして製炭しています。
「白炭は、一定の温度を長く保つことができるので、よく飲食店などの業務用に使われることが多いです。黒炭は火の起こしやすさと火力の強さが特徴なので、2〜3時間で行われるBBQに適しています。それぞれ用途によって選んで使うのもきっと楽しいと思いますよ」(阿部さん)
(写真提供:(一社)岩手県木炭協会)
岩手県北の炭‥岩手窯
岩手木炭のほとんどは洋野町や軽米町、九戸村などの県北地域で生産されています。その製造に使われているのが、岩手県木炭協会が研究・開発を主導した「岩手窯」や「岩手大量窯」。それまで一度につくられていた量よりも、より大量にかつ均一な品質で焼き上げる構造を発明し、良質で安定した品質の木炭生産が可能になりました。
「昔、木炭職人の人たちは小さい窯を持って移動していたんです。原木のある山で木を切って、その場で木炭をつくっていたんですね。その製造方法を変えたのが、岩手大量窯。自宅の庭先に設置する窯なので、大きさを確保することができて、一度に大量の木炭を生産できるようになりました」(阿部さん)
(写真提供:(一社)岩手県木炭協会)
岩手木炭は、焼くのに半月、またそれを冷ますのに1週間から10日かけるので、製造できるのは1ヶ月に1度。年中生産している人でも、炭を焼くのは年12回が一般的だといいます。それだけ丁寧に、時間をかけられてつくられた木炭は岩手県木炭協会の検査を経て、はじめて「岩手木炭」という名称が与えられます。また、岩手木炭には「GIマーク(地理的表示マーク)」と呼ばれるその土地の風土や伝統が育んだ特色ある地域ブランドであることを示すマークがつけられています。
「『岩手木炭』や『岩手切炭』という名称は、岩手産の木材を原木とし、岩手窯を使って生産され、岩手県木炭協会の検査を経た木炭にのみつけられています。また『岩手木炭』、『岩手切炭』でなければ、このGIマークもつけられていません。この岩手木炭のパッケージとGIマークを持って、全国の方に認知されています」(和嶋さん)
(写真提供:(一社)岩手県木炭協会)
山が荒れると環境に影響する
岩手県内で生産から流通までが一貫して行われ、全国にたくさんのファンがいる岩手木炭。いい炭をつくること、またいい炭を使うことは単純な炭としてのよさを味わうだけでなく、「今取りだたされている環境問題の解決にも繋がる」と和嶋さんは話します。
「土砂崩れや害獣問題など、今起きている環境問題の多くは山や森林の環境変化がきっかけになっているものが多いです。その原因になっているのが、林業の停滞。木を切る仕事の需要が減ってしまったことで、山が荒れてしまっています」
「岩手木炭の原料になっているナラの木は、25年前後の若い状態の木。まだ健康な木を切ることで、その後また同じ切り株から、木が成長するので、原木を収穫することが山を守ることにも繋がっているんです」
(写真提供:(一社)岩手県木炭協会)
「ただ木炭ならそのどれもが環境にいいかというとそういうことではなくて。よくスーパーやホームセンターなどで販売されている安価な外国産のものは輸出などに多くのエネルギーが使われ、二酸化炭素の排出量が多くなってしまっていたり、そもそも品質としてあまりよくなかったりします。なので、なるべくみなさんの住んでいる場所の近くでつくられている国産のものを使うのがいいと思います」
いい道具をつくるために、おいしい料理をつくるために、これまで人々の暮らしを支え続けてきた炭。
その歴史やつくられている背景を知ることで、どんな炭を選んで使ったらいいか、そのヒントがたくさん得られたと思います。
これから料理やバーベキューをする時には、ぜひOIGENの鉄器と岩手木炭を一緒に使ってみてください。きっとこれまでよりもさらに味わい深い、愉しい時間が過ごせるはずです。
文 宮本拓海(みやもとたくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。
2019年4月よりフリーランスライターとして活動中。
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