今回ご紹介するのは、“植物料理”研究家の今里佳子さん(通称“ヨシさん”)からのお手紙です。
マクロビオティックを勉強し、自身も野菜・穀物中心の食生活を送る中、様々なベジタブル料理の研究開発を行うヨシさん。そのくるくる動く大きな瞳と明るくやわらかい笑顔にOIGENスタッフの中にも隠れファンがたくさん。
そんなヨシさんに、10年以上の開発の歳月をかけて誕生した“まんまるまぁるい”鉄鋳物フライパン「マルット」(2020年発売開始)を使ってみてもらうことにしました。マルットは今までにないカタチのフライパン。包み込むように食材に火が入るイメージでデザインされました。お父さんやお母さんが、お子さんの健やかな成長への願いと愛で包み込むような栄養満点の料理に使って欲しい。そんな料理のレシピをお願いするなら誰?すぐに思い浮かんだのはヨシさんでした。
でも、その思惑はOIGEN側の話。まずは料理人であるヨシさんが、素直にどんな反応をするのか。私たちスタッフもドキドキしながら待っていました。
届いた第一声は…「マルットすごい!」
なぜヨシさんがそう言ってくれたのか。そしてヨシさんが考える“植物料理”とは何か。ヨシさんの言葉でつづられています。お肉を使わないベジタブル料理はやさしいお味で健康的…でも時に物足りないのではと思う方も多いかもしれませんが、それは大きな勘違いかもしれないと教えてくれるメッセージです。野菜や穀物などの植物の力を時にやさしく、時に力強く引き出す秘訣も見えてきます。
INDEX:料理研究家 今里佳子さんに聞く
1.インタビュー前編「ありのままの“普段着”料理で旅をする」
2.インタビュー後編「ありのままの“普段着”料理で旅をする」
3.お手紙「その土地のその季節の味を引き出す“植物料理”」
マルット野菜をとびきり美味しくする鍋
| まずは素材だけで料理してみてほしい |
私が最初に試したのは、焼き芋。さつま芋を入れて、少量の水を差して蓋をして30分くらい弱火にかけます。むしろ「鉄焼き芋」とか「蒸し焼き芋」と呼ぶほうがぴったりきそう。蓋を開けると、皮はパリンと乾いて、にじみ出た果汁が焦げてカラメルの香りが立ちのぼります。身を割ってみると濃厚な黄色み、そして濃厚な甘さ。喉が全然渇かないしっとり具合。この美味しさには思わずパートナーと顔を見合わせてうなってしまいました。香ばしい皮まで全部いただいたので、残ったのは尻尾のみ。
そうなると、人参や大根だって大きめに切ってオリーブ油と塩少々をからめて、やっぱり同じように蒸し焼きにします。竹串がすっと、通るようになったら完成です。青菜や果菜類など水分の多い野菜なら、水を入れる必要はありません。ほとんど野菜自身がもつ水分で、まるごと完結の極上シンプル料理。これが食卓の主役になってしまう。どんな野菜も、その糖分がキャラメル化して甘みが増し、一度出たうまみは、鍋のなかに閉じ込められて再び野菜に戻っていきます。
鍋底に残った野菜のエキスをなめてみると、びっくりすると思います。野菜ってこんなに甘くって、濃かったのかって、毎回驚いてしまいます。
野菜まるごと蒸し焼きでこの口福だから、マルットでつくるいろんな料理が期待以上に美味しくなるのは言うまでもなく。料理をするとき、マルットのなかで何が起きているか、私なりに考えてみました。
| 鍋の中で複合的な調理が起きている |
炒めてから煮込む、という料理のスタイルは、どの国にも見られますね。例えば、インドの家庭料理にあるような野菜のカレーを作ってみたいと思います。鍋はじっくりと中弱火で温めます。水滴を垂らしてみて、すぐにやさしく弾けるくらいが目安です。
鍋全体にしっかりと厚み、そして密度があるので、一般的な鍋よりも温まるのに時間がかかりますが、一度温まると安定して温度を保ってくれます。これが蓄熱力。油を入れて、玉ねぎを炒めます。といっても、普通に炒めてもばっちり美味しいのですが、ここでおすすめしたいのは、水分を引き出すための振り塩をし軽く炒め、蓋をして弱めの火で蒸し炒めにする方法。そうすると、保湿されながら徐々に熱が入るので、黄金色した甘みのある玉ねぎソテーができあがります。始終かき混ぜる必要もなく、ときどき蓋を開けてヘラで返してあげるだけです。
マルットの厚みと安定した温度のおかげで、弱い火で世話をしてあげれば、驚くほど焦げません。これが弱火力!
次に、カレー粉を加えるのですが、乾燥スパイスは本来、油になじみ、熱が入ることによって眠っていた香りが目覚めます。だからと言って焦がすと苦くなってしまいます。今まさにちょうどいい温度帯が保たれているので、玉ねぎとからまったカレー粉の香りが自ずと立ってきます。
トマトを加えて、煮詰めます。このトマトはグレービー(ソース)のためなので、フレッシュな青臭さを煮詰めてうまみにしていく必要があります。強めの火なら短時間で煮詰まりますし、弱火でコトコト、ゆっくり煮詰めてもいい。
ここでも、熱の入り方で普通の鍋と「違うなあ…」と感心するのは、底面からだけでなく、側面からも熱がしっかり伝わり、そのまま逃げずに対流しています。単に煮飛ばされているのとは違う、味を逃さないようにして煮詰まっていきます。熱の対流力です。
こうしてカレーのベースができあがったら、ここで、具になる野菜を加えます。ここでも、蓋をして野菜が持つ水分を出すようにして蒸し煮にしてみましょう。この水分の中には香りやうまみが含まれているので、グレービーに溶け込みながら高まって一体化していくのです。
そう、これなんです。煮ながら、炒めながら、焼きながらも「蒸す」という機能が、マルット料理の美味しさの一番のポイントなのではないかと、私は思っています。まさに、鍋の中で、複合的な調理が起きているのですね。味を調えたら、火を止めて蓋をしたまましばらく置きましょう。余熱調理の時間です。蓄熱力によって、素材に味が染み込んで、まとまりのある仕上がりになります。
| 植物の料理とマルット |
私がベジタリアン料理・穀物菜食料理というものに出会ってから、気づけば20年以上が経ちましたが、数年前からは自分がつくる料理を「植物料理」と呼ぶようになりました。
四季折々の野菜や果物、穀物や豆、海藻、香辛料やハーブ、油や調味料の材料、飲み物やお酒などの嗜好品に至るまで、私たちは植物の恵みをいろんな形でいただきながら生きています。普段何気なくいただいている植物の命に気づき、だれもが美味しい驚きとともにもっともっと植物をたのしんで、という思いを込めています。
お肉など動物性の食品が力強い味だとしたら、一般的に野菜や植物性の食品はやさしい味わいの魅力をもっています。
ですが、引き出し方によっては、やさしいだけでない、とてつもない多様な表現力をもつことができます。動物性の素材のように力強い濃厚な味わいを出すことも可能なのです。わたしはこれを「植物の動物化」と呼んでいます。その際、素材の味をうまく凝縮させていくことができるこの鍋が、とっても頼りになります。
マルットは、火の入れ方次第で、植物をやさしいものにも、力強いものにも変化させて、毎日の食卓を愉しませてくれる、どっしりと頼りがいのある相棒になることと思います。
| 今日はマルットに何を入れようか |
シンプルが生きるから、使う素材にもあらためて向き合いたくなります。基本は、旬の地野菜。
私が大切にしている「身土不二」という言葉は、体と体を取りまく自然はひとつながりで循環しているもの、だから季節のもの、地元で採れるもの、自然のサイクルに則ったものを食べて、体を自然のリズムにチューニングしていこうということです。
旬の地野菜、それだけで味に力があります。そしてマルットでその美味しさが最大限に引き出されます。季節外れのものを探す必要はありません。今、自然が与えてくれる選択肢の中から、今日は何を入れようか、と思案するのが楽しみなのです。
| 素材と熱の、いちばん幸せな関係 |
蒸し煮・蒸し焼き・蒸し炒め。炒める・煮る・ゆでる・炊く・蒸す・揚げる。
マルットを使っていると、美味しい料理というのは、野菜(素材)と火(熱)が鍋を介して仲良く出会った結果、出来上がるものなのだということに、深く納得がいきます。二つの関係を取り持つ鍋が優れていれば、料理人は、美味しくなぁれ、と時折お箸を入れながら見守る、かまどの番人であればよいのです。
| 行列のできる鍋 |
そういうわけで我が家では、マルットは一品出来上がったら洗って次の料理を作るという、すっかり行列のできる鍋になっています。皆さんにもぜひ、野菜×マルットの驚きを毎日味わっていただきたいと思っています。
今里佳子さんの「ヨシベジ」YouTubeチャンネルはこちら≫
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