鉄瓶選びに迷ったら…参考にしてください。白湯が美味しい、昔ながらの日本の湯沸かし道具である「南部鉄瓶」。及源鋳造|OIGENの「南部鉄瓶」の歴史と製法について詳しくご紹介します。鉄瓶選びに迷われている方の一助となれば幸いです。
目次
- そもそも、南部鉄瓶の“南部”とは?
- 限られた鉄瓶だけが「南部鉄瓶」を名乗れる
- 伝統技法と現代技法-南部鉄瓶の作り方は2つある
- 1.伝統的な「焼型」技法
- 2.機械製造と結びついた「生型」技法
- OIGEN鉄瓶の「焼型」と「生型」の比較表
そもそも、南部鉄瓶の“南部”とは?
南部鉄瓶で有名な伝統工芸「南部鉄器」は、岩手県の南部鉄器協同組合連合会に属する、岩手県内の製造業者が作る鉄器にのみに使用が許された名称です。南部鉄器産地は岩手県の盛岡地域と水沢地域(現・奥州市)の二地域があります。盛岡地域は江戸時代の“南部”藩の城下町であることと、水沢地域*は北海道に次いで広い岩手県の中で地理的に“南部”地域にあることから、共同呼称として“南部”を冠することに。こうして、岩手県の鉄鋳物は「南部鉄器」と呼ばれるようになりました。
*水沢地域は、江戸時代は伊達藩に属する地域でした。鉄鋳物の歴史は長く、今から約900年前の奥州平泉時代に遡ることができます。一方盛岡地域では、江戸時代に南部藩主が京都から釜氏を呼んで茶道具を作らせたことから始まったと言われています。
限られた鉄瓶だけが「南部鉄瓶」を名乗れる
及源鋳造|OIGENの鉄瓶は、「南部鉄瓶」の名で親しまれています。鉄瓶は、国内製だけでなく中国製などの海外製が見受けられますが、南部鉄瓶を名乗れるのは、上記の「岩手県の南部鉄器協同組合連合会に属する岩手県内の製造業者が作る鉄器」という条件に当てはまるもののみです。及源鋳造|OIGENは、“伝統の南部鉄瓶らしい”鉄瓶を大事にしながらも、現代のキッチンや暮らしのシーンになじむ「湯沸かし道具」としての、モダンなデザイン開発に取り組んでいます。
伝統技法と現代技法-南部鉄瓶の作り方は2つある
及源鋳造|OIGENの南部鉄瓶には2つの作り方があります。「焼型(やきがた)」と「生型(なまがた)」です。それぞれの作り方について説明します。
1. 伝統的な「焼型」技法
「焼型」は江戸時代から続く伝統的な鉄瓶の作り方です。型作りから完成まで80以上に上る工程を、一人の職人が全て行います。焼型鉄瓶職人が一本の鉄瓶が作れるようになるまでに、およそ10年の月日を要すると言われています。家内工業として伝承され支えられてきた伝統技法です。粗い砂、泥のような砂など調合した何種類かの砂を焼いて固めたレンガのような型から、焼型技法と呼ばれています。
専属の鉄瓶職人・小野竜也
かつては、幼い頃から父の背中を見て育ち、自らも職人になるべく日々鉄瓶作りに向き合う職人の方々に支えられた伝統産業でした。しかし、昨今では後継者不足が深刻な問題となっています。そんな中、及源鋳造|OIGENには、自らこの世界に飛び込み研鑽を積む専属の鉄瓶職人・小野竜也がおります。伝統の焼型技法で鉄瓶制作に打ち込みながら、未来へつなぐ伝統とは何か、自分らしい表現とは何かに日々向き合っています。2024年には12年目を迎え、伝統工芸士の試験を控えた待望の若手職人です。
OIGEN公式オンラインショップならびに、岩手工場直営店「OIGEN FACTORY SHOP」では、小野に加えて地域の鉄瓶職人が作る焼型鉄瓶も販売しています。
製造工程80以上
焼型鉄瓶の制作は大きく分けて4つの工程で進みますが、細かくは80工程以上。完成までおよそ一ヵ月かかります。一つの型から作れる鉄瓶はたったの数点のみ。
1.砂と粘土を混ぜた型を整え焼く
2.型に鉄を流し込む
3.取り出した鉄瓶を仕上げて釜焼きをする
4.その後漆で焼付け塗装をしてツルを付ける
冬場は型が凍り作業ができないことも。焼型鉄瓶作りは自然の気温などに大きく作用され、生産量は限られています。焼型に使われる砂は、代々の職人から受け継がれてきている古い砂のほか、北上川河川敷の砂を今でも使用しています。粘土は北上山地の粘土です。職人・小野は最後の工程である鉄瓶の着色に、希少な岩手県産の漆を使用することにこだわっています。
焼型に使われるツル(持ち手)もまた、同じ地域に古くから続くツル職人(鍛冶屋)の手作りです。鉄瓶職人とツル職人は鉄瓶の形を見ながら、打ち合わせをしてツルを造形していきます。
焼型鉄瓶の特徴
焼型鉄瓶は、次に紹介する2つ目の「生型」技法で作られる鉄瓶に比べて、肉厚が薄く作れるので軽いのが特徴です。職人による完全手づくりなので、価格も「生型」に比べると高額です。焼型鉄瓶は、底面が一番デリケートで弱い部分なため、底面だけを強力な磁力で発熱するIH調理器には向いていません。また、及源鋳造|OIGENで取り扱っている焼型鉄瓶の多くは、経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品として、「伝統マーク」のタグが付いています。
小野竜也作『焼型』鉄瓶
「鉄瓶 びわ」(画像左)と「鉄瓶 つづみ」(画像右)
2. 機械製造と結びついた「生型」技法
もう一つは「生型」技法と呼ばれる現代技法です。機械を使って砂を圧縮して型を造形することでより効率的に量産が可能となりました。戦後、電気が使える時代になり、すでに機械化が進んでいた鉄鋳物産地の一つである埼玉県川口市より伝わりました。「焼型」のように型を焼く必要はなく、砂は何度でも再利用ができます。機械を用いる生型技法により、多くの人の手に南部鉄瓶が届くようになりました。
とは言え、主に一番力がかかり体に負担のかかる重い作業である造型と、型を運ぶ工程にのみ機械は使われます。溶かした鉄を流し込む作業や、それ以降の細部の仕上げ作業は、機械の時代となっても職人の手作業が頼りです。
焼型技法が職人に伝承される伝統としての“型”を重んじるのに比べると、生型技法はライフスタイルに合わせた自由なデザインができるのが魅力です。パリの街角に南部鉄瓶が素敵に飾られている光景は、「生型」の普及によるところが大きいと言えるでしょう。生型技法が日本の文化を広く世界に知らしめたと言っても良いと思います。
生型技法を支える石膏職人や鍛造の技
生型鉄瓶の制作には、石膏職人と言う専門の職人の技が必要です。石膏で原型と言われる製品のモデルを作るのですが、これは焼型技法における型を作る以上に細かく手の込んだ作業です。石膏職人についてはこちら》
また、生型鉄瓶の弦(読み:ツル/持ち手)は鍛造工場で作られています。力のかかる曲げの工程などは機械の力を借りますが、一つ一つ職人が手で仕上げ、持ち心地を確認しながら作っています。
*生型鉄瓶であっても、焼型鉄瓶と同様に職人が完全手づくりしたツルを使用した鉄瓶もあります。
生型鉄瓶の特徴
生型鉄瓶は焼型鉄瓶に比べると肉厚があるので重くなります。内部は焼型鉄瓶と同様に釜焼き*を施し、外部の着色には南部鉄器用カシュー塗料を焼き付けています。IH調理器にはIH対応の鉄瓶をお選びください。OIGENの【IH対応の鉄器】についてはこちら》
OIGENの生型鉄瓶のいろいろ
[焼型と生型の比較表]OIGENの南部鉄瓶についてまとめ
焼型 | 生型 | |
伝統マーク | ○ | × |
職人の名前 | ○ | ×*1 |
IHでの使用 | × | ○、×*2 |
鉄製 | ○ | ○ |
価格の目安 | 4万円〜10万円 | 1万円〜4万円 |
※1. 職人の名前ではなく、「南部盛栄堂」または「OIGEN」の刻印が入っています。
※2. IH対応の鉄瓶と、非対応の鉄瓶がございます。各鉄瓶のIH使用の可否は、公式オンラインショップの各商品ページならびにカタログをご確認ください。
まとめ
伝統の「焼型」と現代の「生型」。どちらの南部鉄瓶も、高温で溶かした熱い鉄を型に流し込み固める[鋳造]と呼ばれる技法で作られます。伝統に裏付けされた岩手の工芸品です。南部鉄瓶を選ぶ際のご参考になれば幸いです。