「鉄は錆びやすい金属でしょう?だから、鉄器を使うのは厄介だ。」
そう思われる方々も多いようです。しかし、大前提としてお伝えしておきたいことがあります。ここで感じる「厄介」の原因のほとんどは[赤サビ]だということを。
サビには大きく分けて、赤茶けた[赤サビ]と[黒サビ]の二種類があります。[赤サビ]とは、みなさんが想像するいわゆるサビです。腐食が進行すると鉄器の表面がボロボロと傷み、穴さえも開けてしまう厄介なサビです。一方、[黒サビ]とは、鉄、ひいては鉄器の表面を厄介な[赤サビ]から保護してくれるという、優れた性質をもったサビなのです。
このページでは、鉄器にまつわる2つのサビについて、詳しくお伝えします。
目次
- 型から生まれたままの鉄器は“赤サビ”やすい
- [黒サビ]の正体-酸化皮膜が赤サビから守る
- [黒サビ]をまとう伝統技法が施される鉄瓶
- [黒サビ]の防錆力
- [黒サビ]が叶えた無塗装仕上げの鉄鍋・鉄フライパン
- 元素記号”Fe”と鉄器
型から生まれたままの鉄器は“赤サビ”やすい
鉄器は、鋳造(液体となった鉄を型に流し込み、形を作る技法)されて、型から取り出されたばかりの時は、鈍い光沢のある”ねずみ色”をしています。
この鈍い光沢のある”ねずみ色”のままの鉄器を水につけて取り出し、空気中におくだけで、酸素と鉄(Fe)が結合し[赤サビ]が発生します。
下の写真は、型から取り出したままの状態の“ねずみ色”をした南部鉄瓶に、水を一日入れたままにしておいた様子です。浮き出た赤サビが水に溶け出しています。
黒サビの正体―酸化皮膜が赤サビから守る
しかし、この上の写真でお見せした「南部鉄瓶」は、常に“錆びる“湯沸かし道具ではありません。なぜでしょうか?そこには理由があります。
もう一つのサビ=[黒サビ]が鍵を握っています。鉄(Fe)は、900℃程の高温で加熱をすると化学変化を起こし、表面に「酸化皮膜」と呼ばれる”膜”を形成します。この酸化皮膜こそ[黒サビ]です。
黒サビは、青っぽい”ねずみ色”です。[黒サビ]=酸化皮膜は、[赤サビ]の発生を防ぐ役割を果たします。鉄(Fe)自体が元来持つ自然の特性を活かした防錆の技を施しているのが、「南部鉄瓶」です。
[黒サビ]をまとう伝統技法が施される鉄瓶
及源鋳造|OIGENの鉄瓶は、すべて約900℃に加熱され、全体に黒サビ(酸化皮膜)を形成します。伝統的な南部鉄瓶の技法「釜焼き」を改良し、OIGEN独自の技術によって、より均一で緻密かつ強靭な黒サビを生成することに成功しました。ちなみに、鉄(Fe)の性質を利用した錆止めは江戸時代に始まったとされ、「金気止め」と呼ばれていました。
最終的に外側は黒色等に着色されて店頭に並びます。ほとんどのOIGEN鉄瓶の内部は、[黒サビ]*の特徴的な青っぽい”ねずみ色”をしています。
*OIGEN公式オンラインショップでは、鉄瓶の商品ページに[内部素焼き]と表示しています。
[黒サビ]の防錆力
黒サビをまとった鉄瓶と鈍い光沢のある”ねずみ色”の生地のままの鉄瓶で赤サビの発生の実験をしてみました。下の写真は20日間、水道水を入れたままの状態です。
左の鉄瓶の内部には小さなサビが見えていますが、水はきれいな透明です。右の鉄瓶は赤サビが溶け出して赤水となっています。[黒サビ](酸化皮膜)をまとった鉄瓶は、赤く錆びにくいことがお分かりいただけると思います。
しかし、鉄器は鉄ですので水を入れたまま放置せず、使い切った後は空焚き(30秒程度)をしてしっかり内部を乾燥させてください。もし、[赤サビ]が発生してしまった場合には、下記の記事をご覧ください。
鉄瓶にサビが出てしまいました。お手入れ方法を教えてください。
[黒サビ]が叶える無塗装仕上げの鉄鍋・鉄フライパン
及源鋳造|OIGENには、鉄瓶以外にも900℃程で焼いて黒サビ(酸化皮膜)を形成した「無塗装はだか仕上げ」の鉄鍋・鉄フライパンがあります。一般の鉄鍋・鉄フライパンとは異なる長所を持ったオリジナル製品です。OIGEN独自開発「無塗装はだか仕上げ」についてくわしくは、下記の記事をご覧ください。
ものづくり:仕上げの記事 へリンクしたい。
また、該当製品については、下記リストより各商品ページをご覧ください。
無塗装はだか仕上げ でソートしたページはいけますか?
元素記号”Fe”と鉄器
鉄の元素記号は”Fe”です。鉄は地球上で最も多量に存在する元素で、地球の核のほとんどは、熔けた鉄からなると考えられています。鉄は地球重量の約3分の1を占めていて、この点から見ると地球は「鉄の惑星」とも言えます。私たちの血液にも”Fe”が存在し、生物の生命維持に欠かせない、最も身近な金属と言っても過言ではないでしょう。
時々、「鉄器に使っている金属は鉄だけですか?」と質問を受けることがあります。主となる金属は”Fe”(鉄)ですが、他にC(炭素)、Si(ケイ素)、P(リン)、S(硫黄)、Mn(マンガン)の五元素、さらに多くの微量元素が含まれています。純粋なFe(鉄)はそのままで存在することは難しく、Fe(鉄)と他の元素の化合物として存在するのが一般的だからです。
また、Fe(鉄)の化合物は、C(炭素)の含有率で硬軟度合いが変わる特性があります。工芸品に向く状態の“鉄”や機械部品に向く“鉄”があります。ある程度の柔らかさを持つ“鉄”を、型に流し込む=鋳込むことで出来上がる鉄器は「鉄鋳物」とも呼ばれています。